102-2
ラジオの第2回の放送は無事に終わった。
ケイが放送ボタンを切ると、俺たちはほっと息をついた。
自分たちの声がケルタス中に流れると思うと、緊張しないことなどあろうか。
「ドキドキしましたねー」
「ですわね」
「楽しかったろう?」
俺たちはそろってうなずいた。
「アッシュ、スセリ、プリシラ、マリア。今日はゲストとして来てくれてありがとう」
「俺たちこそ、誘ってくれてありがとう。サンブロス」
「よかったらまた遊びにきてくれ。もちろん、ゲストとしてじゃなくても。お茶もお菓子も用意しておくからさ」
「もちろんですわ」
ケイもイリスもいい人だ。
心から他人を楽しませようとしている。
槍を手に脅かされたときはどうなることかと思ったが、それも遠い過去に感じる。
「ケイ。次回のゲストは誰にする? 次もアッシュさんたちだと、他の人たちに対してちょっとズルい気がするから、別の人がいいと思うけれど」
「ああ。このラジオはできるだけケルタスの人たちの身近にありたいから、なるべく多くの人をラジオに参加させたいね」
考え込む兄妹。
するとスセリが挙手をした。
「あー、ワシの友人をゲストに呼んでくれんかの」
目をそらして恥ずかしげに言う。
「もちろんだとも。その友人って誰だい?」
「さっきのセヴリーヌのという子じゃ」
「あ、そうだったんだ!」
スセリがセヴリーヌを『友人』と言った。
俺はそのことに少しうれしくなった。
「あやつは街から離れた場所に住んでおるから、ケルタスの連中との交流がほとんどない。あやつはこれから長く生き続ける。ゆえに街の人との交友関係は大事なのじゃ」
「わかったよ」
ケイがぐっとこぶしを握り締める。
「次回はセヴリーヌちゃんをみんなに紹介するよ。彼女にたくさん友人ができるようにね」
「感謝するのじゃ」
そして『夏のクジラ亭』に帰ると、セヴリーヌが俺たちを待っていた。
「おい、スセリ」
「なんじゃ」
セヴリーヌは上目づかいでスセリをにらんでいる。
手は後ろに回している。
なにかを隠しているのか。
「これ、くれてやる」
セヴリーヌが後ろ手に隠していたのは、緑色の水晶玉だった。
ほかに魔力を感じる。
「アタシの宝物だ。きれいだから家に飾ってあったんだけど、お前にやる」
ちゃんとラジオを聴いてたんだな。
それにしても、不器用だ。
もっとも、スセリは彼女のせいいっぱいのがんばりを台無しにしてしまうほど無慈悲ではない……はず。
「……」
「いらないなら返せ」
「いや、もらうのじゃ」
スセリはそれを受け取る。
返事はない。
沈黙が流れる。
「ありがとうなのじゃ。セヴリーヌ」
スセリが笑みを浮かべてそう返事をした。
セヴリーヌはびっくりして目を見開く。
それから見開いていた目を細め、赤く染まった頬を指でかいた。
「お前のこと、もう憎んでないからな」
「知っておる」
「お前はアタシのことを嫌っているんだよな……」
「そんなこと言った覚えはないのじゃ」
「そ、そうか! よかった……」
恋敵同士の因縁はここで幕を閉じた。
仲直りという大団円で。




