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101-6

「いいですわね」

「ちょっと緊張しますけど、面白そうですっ」


 俺はというと、ちょっと困っていた。

 人前で話すなんて気恥ずかしい。

 みんなを楽しませる話題なんて持っていないし。


「アッシュよ。よもや逃げるのではあるまいな」


 スセリが俺の顔をまじまじと見ながら言う。


「……逃げないさ」

「うむ。よく言った」


 とはいえ、自分のおしゃべりがケルタス中に広まるのか……。

 つっかえずに話せたらいいのだけれど。


「ところでケイ、イリス。あなたがたきのう、ラジオで音楽を鳴らしていましたわよね」

「ああ。気に入ってくれたかい?」

「ええ。とてもステキでしたわ。ケルタスでの評判もよかったみたいですし」

「そうかい。俺もうれしいよ」


 ケイが席を立って四角い機械の前に行く。


「音楽は他にもいっぱいあるよ。ご所望なら鳴らそうか?」

「お願いしますわ」

「いろんなジャンルがあるんだけど、どういうのがいいかな」


 マリアはくちびるに指を添え、天井を眺めながら考える。

 それからこう答えた。


「でしたら、現代の音楽とはぜんぜんちがったすごい曲がいいですわね」

「せっかくですものね、マリアさま」

「よーし、ならあの曲を鳴らしてみよう。心臓が飛び出ないように胸を押さえておいてね」

「あら、楽しみですわ」


 ケイが楽しそうに操作を操作する。

 マリアとプリシラもわくわくしている。


「それじゃあ、演奏開始!」


 次の瞬間、すさまじい音楽が流れた。

 いや、これを音楽と言っていいのだろうか。

 音楽というよりも騒音と呼ぶにふさわしい、荒々しくけたたましい楽器の音が鳴り響く。


 マリアとプリシラは悲鳴をあげて耳をふさぐ。

 若い男性の歌声も、地獄で茹でられる罪人の叫びのようなおぞましさ。

 音楽の暴力的な音色が内臓を振動させる。


「止めて! 止めてくださいまし!」

「はははははっ」


 ケイがボタンを押して音楽を止める。

 急に静寂が訪れた。


「な、なんなんですの、今のは……」

「びっくりしました」


 二人は胸をなでおろしている。

 予想どおりの結果だったらしい。ケイは満足げ。

 そんな兄に対し、イリスは肩をすくめていた。


「いやー、実にいい反応だったよ」

「今のは本当に音楽ですの?」

「間違いなく音楽だよ。当時の若者に人気だったらしい」

「ケイ。いじわるはやめてちょうだい。せっかくお友達になれたのに」

「悪かったよ」

「い、いえ、これもよい経験でしたわ」


 マリアは貴族の令嬢。今まで上品な音楽ばかりたしなんできたから、相当驚いたろう。

 そしてスセリはけろっとしていた。


 実は俺も、ああいう音楽もありだなと思ったり。

 心臓を揺さぶる叫びと音、聞き続けるとクセになりそうだ


「ケイとイリスは古代文明の文化に精通しているんだな」

「まあ、それなりにね」

「両親が古代の大衆文化について研究していたのよ」

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