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「いいですわね」
「ちょっと緊張しますけど、面白そうですっ」
俺はというと、ちょっと困っていた。
人前で話すなんて気恥ずかしい。
みんなを楽しませる話題なんて持っていないし。
「アッシュよ。よもや逃げるのではあるまいな」
スセリが俺の顔をまじまじと見ながら言う。
「……逃げないさ」
「うむ。よく言った」
とはいえ、自分のおしゃべりがケルタス中に広まるのか……。
つっかえずに話せたらいいのだけれど。
「ところでケイ、イリス。あなたがたきのう、ラジオで音楽を鳴らしていましたわよね」
「ああ。気に入ってくれたかい?」
「ええ。とてもステキでしたわ。ケルタスでの評判もよかったみたいですし」
「そうかい。俺もうれしいよ」
ケイが席を立って四角い機械の前に行く。
「音楽は他にもいっぱいあるよ。ご所望なら鳴らそうか?」
「お願いしますわ」
「いろんなジャンルがあるんだけど、どういうのがいいかな」
マリアはくちびるに指を添え、天井を眺めながら考える。
それからこう答えた。
「でしたら、現代の音楽とはぜんぜんちがったすごい曲がいいですわね」
「せっかくですものね、マリアさま」
「よーし、ならあの曲を鳴らしてみよう。心臓が飛び出ないように胸を押さえておいてね」
「あら、楽しみですわ」
ケイが楽しそうに操作を操作する。
マリアとプリシラもわくわくしている。
「それじゃあ、演奏開始!」
次の瞬間、すさまじい音楽が流れた。
いや、これを音楽と言っていいのだろうか。
音楽というよりも騒音と呼ぶにふさわしい、荒々しくけたたましい楽器の音が鳴り響く。
マリアとプリシラは悲鳴をあげて耳をふさぐ。
若い男性の歌声も、地獄で茹でられる罪人の叫びのようなおぞましさ。
音楽の暴力的な音色が内臓を振動させる。
「止めて! 止めてくださいまし!」
「はははははっ」
ケイがボタンを押して音楽を止める。
急に静寂が訪れた。
「な、なんなんですの、今のは……」
「びっくりしました」
二人は胸をなでおろしている。
予想どおりの結果だったらしい。ケイは満足げ。
そんな兄に対し、イリスは肩をすくめていた。
「いやー、実にいい反応だったよ」
「今のは本当に音楽ですの?」
「間違いなく音楽だよ。当時の若者に人気だったらしい」
「ケイ。いじわるはやめてちょうだい。せっかくお友達になれたのに」
「悪かったよ」
「い、いえ、これもよい経験でしたわ」
マリアは貴族の令嬢。今まで上品な音楽ばかりたしなんできたから、相当驚いたろう。
そしてスセリはけろっとしていた。
実は俺も、ああいう音楽もありだなと思ったり。
心臓を揺さぶる叫びと音、聞き続けるとクセになりそうだ
「ケイとイリスは古代文明の文化に精通しているんだな」
「まあ、それなりにね」
「両親が古代の大衆文化について研究していたのよ」




