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そしてヘルメットの青年のうしろには金髪の少女がいた。
まさか人が乗っているとは思いもよらず、俺たちはあんぐりと口を開けていた。
ヘルメットの青年と金髪の少女が昇降機から出てくる。
「このビルは関係者以外立ち入り禁止だ。出ていけ」
槍の矛先を向けてくるヘルメットの青年。
俺たちは慌ててうしろに下がった。
その表情と口調から、腹を立てているのが容易にわかる。
「いきなりそれはひどいわよ、ケイ」
「イリス……」
イリスと呼ばれた金髪の少女が槍の柄をつかんで下ろさせる。
そしてにこりと微笑んだ。
「彼らは私たち『サンブロス』のファンかもしれないわ。ラジオの放送日が待てなくてビルまで来ちゃったのよ、きっと」
「……だとしら、邪険には扱えないな」
ケイと呼ばれたヘルメットの青年が冷静さを取り戻す。
「お前たち、ケルタスの住人か? 俺たち『サンブロス』のファンなのか?」
「え、えーっと……」
困った俺たちは互いに目配せしあった。
二人は何者だ?
だいたい『サンブロス』ってなんだ?
ラジオってなんだ?
さっきからわからないことだらけだった。
「とりあえず、どっちも違うと思います」
「……」
ケイがふたたび矛先を向けてくる。
「なら出てけ。不法侵入者どもめ」
塔から追い出されてしまった。
「なんなんですの!? あの方たちは!」
憤慨するマリア。
「思いっきり邪険に扱われたのう」
「怪しい輩は自分たちではありませんこと!?」
「『サンブロス』とは団体の名前でしょうか」
「聞いたことないのじゃ」
「二人は『ラジオ』っていうのをやろうとしているらしいが……」
単なる印象でしかないが、ケイとイリスは悪党には見えなかった。武装はしていたが。
推測すると、二人はこの塔を占拠して『ラジオ』をしようと企んでいる。
その『ラジオ』とやらがなんなのか……。
「アッシュ。力ずくでも『サンブロス』のラジオを阻止しますわよ」
「いや、相手は人間だ。話し合いの余地があるのならそれは捨てるべきじゃない」
「でも、ラジオが危険な行為だとしたら見過ごせませんわ」
「『サンブロス』にもう一度会ってみよう」
ところが塔の入り口のガラス扉は自動では開かなくなっていった。
ケイとイリスが開閉機能を止めたのだろう。
手動で開けるものではないため取っ手はついていないし、つるつる滑るし、開けるのにも難儀する。
破壊したり魔法でこじ開けたりすることはできるが、そうすると余計に俺たちに敵意を向けるかもしれない。
いったん俺たちはケルタスの街に引き返し、ギルドにこの件を報告した。
これからどうするかはギルドで決めるという。
なかなかの報酬を手にして『夏のクジラ亭』へと帰った。




