10-6
「クローディア・ガルディア。その命、もらい受ける!」
三人の暗殺者たちが一斉に襲い掛かってきた。
「ていやあーっ」
「風よ! 退けろ!」
プリシラが襲いくる一人を多段ロッドで叩き、残りの二人は俺の放った風の魔法で吹き飛ばした。
風で吹き飛ばされた一人は木の幹に激突し、地面に突っ伏す。
もう一人は空中で体勢を変え、受け身を取って着地した。
二人は倒した。
残り一人だ。
「メイドの本領発揮です!」
最大まで伸ばした多段ロッドを残り一人の暗殺者の頭に打ち下ろす。
暗殺者は真後ろに飛び退いてそれを回避する。
ロッドの攻撃が空振りして姿勢を崩し、隙を見せたプリシラに暗殺者の刃が襲い掛かる。
「プリシラ!」
俺が手をかざして叫ぶ。
俺の声に『オーレオール』が呼応し、かざした手から魔法の弾丸が放たれる。
暗殺者の短刀はプリシラの喉を突く寸前で弾き飛ばされた。
武器を失った暗殺者は真上に高く飛び、木の枝の上に乗る。
そして背中にあった短弓を手に取り、矢をつがえて引き絞った。
狙いは――ディアか!
暗殺者の弓から矢が放たれる。
それとほぼ同時に俺はディアの前に立ちはだかった。
「アッシュさん!」
矢は俺の肩に突き刺さった。
ドクンッ。
猛牛に突き飛ばされたかのような衝撃。
今まで感じたことのないような激痛が肩から全身に走る。
歯を食いしばるも、痛みに耐え切れずその場に膝をつく。
暗殺者が再び矢をつがえて引き絞る。
ダメだ。次の攻撃はかばいきれない。
「見ちゃおれん!」
魔書『オーレオール』からスセリが出現する。
そして暗殺者に向けて手をかざし、呪文を唱えた。
「爆ぜよ!」
その刹那、暗殺者の乗っていた枝が爆発した。
地面に落下する暗殺者。
勝ち目がないとわかったのか、暗殺者は俺たちに背を向けて逃げていった。
気絶していた残りの二人も気がつくといなくなっていた。
ひとまず危機は去った。
「逃したか。ワシも腕がにぶったのう」
「アッシュさま!」
「アッシュさん!」
危機は去ったが、この傷はかなりまずい。
矢は矢じりが完全に肩に突き刺さっている。
めまいと寒気がする。
意識が遠退きつつある。
「ど、どどどうしましょう!」
「申し訳ありません……。わたくしのせいで……」
「言われたからな。『守ってくれ』って」
と格好つけてみたところで、うろたえる二人には気休めにもならない。
プリシラとディアは今にも泣きだしそうだった。
「スセリさん! アッシュさんを助けてください!」
祈るように両手を合わせるディア。
スセリは「ふむ」と自分のアゴをしきりに指でかいている。
「もしかすると矢に毒が塗ってあるかもしれんの」
「そんな!」
口元を押えるディアの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。
プリシラも嗚咽を上げて泣き出した。
スセリだけが平然としている。
「おどかすのもここまでにするかの。さて、プリシラ」
「は、はいっ」
「アッシュの肩に刺さった矢を抜くのじゃ」
「えっ!?」
「獣人であるおぬしの腕力ならできるじゃろ」
「わ、わかりましたっ」
プリシラが俺の前に屈み肩に刺さった矢を握る。
「力いっぱい引っこ抜くのじゃぞ。野菜を収穫するようにな」
「い、痛いかもしれませんが、お許しください、アッシュさま……」
「ああ、やってくれ」
ぐっと矢を強く握りしめた次の瞬間、プリシラは渾身の力で矢を引き抜いた。
吹き出る血しぶき。
尋常でない痛みが肩に襲いくる。
「ぐああああッ!」
俺は耐え切れず声を上げてしまった。
「治癒の光よ!」
間髪いれずスセリがそう唱える。
すると、淡い光が俺の全身を包み込んだ。




