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1-7

「父上」


 返事は決まっていた。

 俺は父上の言葉にこう応えた。


「もう二度と会うこともないでしょう」


 父上ががく然とする。


「『オーレオール』を手にしたお前は、やがてランフォード家一の召喚術師になる! 兄たちをも超えるだろう。戻ってくるのだ! 名門ランフォード家の名を捨てるというのか!」


 俺はきびすを返す。

 背中を向けたまま父上に最後の、決別のあいさつをした。


「さようなら、父上」


 立ち呆ける父上を置いて、俺とプリシラ、そしてスセリはその場を後にした。



 深い森を抜けるとまぶしい日差しの下に出た。

 なだらかな丘陵に、一直線に伸びる街道。

 この先に街がある。


「えっと、つまり、スセリさまは本の精さんなんですか?」


 森を歩く間、プリシラにスセリとの出会いを語って聞かせていた。

 開かずの地下室へ入れたこと、そこに魔書『オーレオール』があったこと、それに触れた瞬間、スセリが現れたこと……。


「本の精ではない。ワシは人間じゃ。正真正銘、ランフォード家の初代当主じゃぞ。数百年前、老いて死ぬ前に魂だけを『オーレオール』に移したのじゃ」

「そんなことができるのですかっ」

「『オーレオール』に記された魔法なら容易いのじゃ」


 プリシラはまだ信じられないようすで、目を丸くしてスセリの上から下までをしげしげと観察していた。


「わたしと同い年くらいですね。スセリさま」

「一番潜在魔力が高かったころの姿をしておるのじゃ。ときにアッシュよ」


 スセリが俺を呼ぶ。


「おぬしには万能の力が与えられた。この力を用いておぬしは使命を果たすのだ」

「使命?」


 そういえば昨日も彼女は『使命』と口にしていた。


「ワシの新たな肉体をさがすのじゃ」


 スセリは俺の持つ『オーレオール』を指さす。


「ワシは今『オーレオール』の魔力を使ってこの物質世界に具現化しておる。逆に言えば、オーレオールが無ければこの姿を保てんのじゃ」


 具体的には、と続ける。


「『オーレオール』からワシは離れることができないのじゃ。だからアッシュよ、『オーレオール』を片時も離すではないぞ」

「俺なんかでいいのか?」

「うん? どういう意味じゃ?」


 俺は召喚術師の家系に生まれながら、ロクに召喚獣を召喚できない『出来損ない』だった。

 そんな俺が一族の宝を手にしてよいのか。


「なんじゃ、そんなことか」


 俺が『オーレオール』の持ち主になるのをためらっている理由を聞かされたスセリは、「のじゃのじゃのじゃっ」と笑った。


「おぬしは『扉』を開けたであろう。あれはワシが魔法で封じた扉だったのじゃ。『オーレオール』の持ち主にふさわしい者のみが開けられるように。じゃから『オーレオール』の継承者はまぎれもなくアッシュ、おぬしなのじゃ」


 俺が『オーレオール』のまぎれもない継承者……。


「『オーレオール』は万能の魔力をおぬしに授ける。アッシュ、おぬしは今をもってこの世界で最強の力を得たのじゃ」


 最強の力……。

 父上たちの召喚獣をいともたやすく退けた魔力。

 もっと使いこなせるようになれば、竜をも倒せるようになるだろうか。


「おぬしがこの魔書の力をどう使うかは自由じゃ。ワシの新たな依り代、つまり肉体をさがすという使命さえ忘れなければな」

「すごいですっ」


 プリシラばぴょんと跳ねる。


「やっぱりアッシュさまは『出来損ない』なんかじゃなかったんです! とってもすごいお方だったんです! わたし、信じてましたっ」

「ありがとう、プリシラ」


 家族はおろか、召使たちからも出来損ないと見下されてきた俺を唯一慕ってくれたのがプリシラだった。

 スセリに命じられた使命はともかくとして、この子の期待だけは裏切らないよう、がんばらなければ。


 こうして俺とメイドの半獣プリシラ、そして銀髪の少女スセリの三人は、いつ終わるとも知れない旅に出たのであった。

【あとがき】


本作『精霊剣承』が注目度ランキング3位に入りました!


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