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元気すぎて呆れてしまった。
スセリは次々とピザを食べていく。
まあ、しおらしいスセリのほうがらしくないともいえるな。
「お前! アタシの分まで食べやがった!」
気が付くとピザの痕跡は跡形もなくなっていた。
「スセリさま。そんなに欲張ると太りますわよ」
「ワシは太らない体質なのじゃよ」
「えっ」
びっくりするマリア。
それから視線を落とす。
「う、うらやましいですわね……。わたくしなんてすぐに太ってしまいますのに」
太っているのか?
俺からすればマリアはまったく太っているようには見えないのだが。
むしろ女性として理想的な体形に見える。
「気にしすぎじゃないか?」
「アッシュにはわたくしの気持ちはわかりませんことよ。はぁ」
マリアはため息をついた。
「わたしはわかりますよ、マリアさまっ」
がしっとマリアの手を握るプリシラ。
謎の連帯感がそこに生まれていた。
「で、こいつの風邪は治りそうなのか? このまま死んじゃうのか? アタシは別にそれでいいけどな」
「さいわい、大したことないらしい。薬を飲めばすぐに治るそうだ」
「なーんだ、残念だな」
セヴリーヌが歯を見せて笑う。
「お前、ベッドから出られなそうだな」
「ああ。風邪のせいか身体の節々が痛くての」
「なら、アッシュはアタシのものだな」
俺の腕に自分の腕を絡ませてくるセヴリーヌ。
「アタシはこれからアッシュと観光旅行を楽しむんだ。うらやましいだろ! くやしいだろー。お前はベッドで寝てればいいんだ」
「アッシュの一人や二人、貸してやるのじゃ。ワタシは懐が深いからの。アッシュ、おぬしも子供のおもりで大変じゃの」
「誰が子供だッ」
本当に仲が悪いな、この二人は……。
「アッシュ、王都を案内してくれよ。お前と二人で王都を見て回りたい」
「ああ、いいぞ」
「やったーっ」
ぴょんぴょん飛び跳ねて、全身でよろこびを表現する。
まったく、かわいいな。
恋愛対象というよりは、妹ができたような感じだが。
そうして俺とセヴリーヌは王都を観光した。
長いこと滞在している俺にとっては見慣れた光景だったが、ケルタスから来た彼女にとってはどれもこれもが輝くものに見えたのだろう。とても楽しそうだった。
本当に彼女は普通の少女だ。
生意気でわがままな、どこでにもいる女の子。
しかし、彼女は永遠に大人になれない。
成長していく過程で得られるはずの分別や節操、欲求の制御というものを得られることはない。
肉体だけではなく精神も彼女はずっと子供のままなのだ。
「すー、すー……」
夕焼けの色に染まった公園。
俺はベンチに腰かけている。
遊び疲れたセヴリーヌは俺のひざに頭を乗せて眠っている。




