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100-2

 魔書『オーレオール』の魔力で生み出された障壁だからだいじょうぶだとわかっているとはいえ、やはり薄くて半透明の壁一枚を盾にするのは怖い。


「ありがとう、人間!」


 妖精が感謝の言葉を述べる。


「でも、どうしてこんな森の奥まで来てたの?」

「野イチゴを摘みにきたんだよー」

「そうなんだ。なら、お礼においしい野イチゴがなってる場所に案内してあげるっ」


 そうして俺とプリシラとフレデリカは妖精に、おいしい野イチゴがなっている場所へと連れていってもらったのだった。



 その後、『シア荘』にて。


「なるほど、そんな大冒険の末に手に入れた野イチゴなのじゃな」


 ベッドに腰かけているスセリが、ケーキをしげしげと眺めながら言った。

 ケーキの上には苦労して手に入れた野イチゴが乗っている。

 まさか機械人形を戦うはめにはるとは思いもよらなかった。


「ですので、よーく味わって食べてくださいね、スセリさま」

「ん? なにか言ったか? もごもごもご……」

「って、一口で平らげてる!?」


 まあ、そうなるよな……。

 食欲があるのはいいことだが……。


「おいしかったのじゃ」

「フレデリカに伝えておくよ……」


 部屋の扉が開く。

 マリアが現れた。


「アッシュ、お客さまですわよ」

「誰だ?」

「ふふっ、会ってからのお楽しみですわ」

「……?」


 誰だろう。

 玄関に行く。

 するとそこには思いもよらぬ人物が立っていた。


「セヴリーヌ!」


 桃色の淡い髪をした幼い少女。

 不老の少女セヴリーヌだった。


「へへ……。会いにきてやったぞ」


 照れくさげに頬をかくセヴリーヌ。

 はにかんだ表情がかわいらしい。


「久しぶりだな、セヴリーヌ。どうしたんだ? 突然。王都に来るなら事前に連絡してくれたらよかったのに」

「転移の魔法がどのくらいの距離まで有効なのか確かめる実験をしてたんだ」


 転移の魔法……。

 やっぱり彼女はちゅうちょなく使うんだな。

 存在を分解して指定した場所で再構築する、死んで生き返らせるのと実質同じ原理の魔法を。


「宿屋のクラリッサに王都の絵を見せてもらったんだ。転移魔法は思い描ける場所にしか転移できないけど、絵を見て思い描いてもできるかどうかやってみたんだ」


 ここに彼女がいるということはつまり、成功を意味している。

 失敗したらどうなっていたのか……。


「てへへ。会いたかったぞ、アッシュ」


 セヴリーヌが抱き着いてくる。

 主人に甘える犬のように顔をこすりつけてきた。


「それにしても、ちょうどいいところに来たな」

「ちょうどいい……?」

「今、スセリが風邪をひいて寝込んでるんだ」

「あいつが風邪? ざまあみろだなっ」


 ははははっ、と機嫌よく笑うセヴリーヌ。


「それじゃああいつのぶざまな姿を拝んでやるとするか」


 まさかセヴリーヌが現れるとは思いもよらなかったのか、彼女がいきなり部屋に現れてスセリはあんぐりと口を開けていた。


「おぬしが見舞いなぞ、どういう風の吹き回しじゃ」

「苦しいか? つらいか? あははははっ」

「幼稚じゃのう」


 セヴリーヌが荷物をテーブルに置く。

 その荷物はピザだった。

 宿屋『夏のクジラ亭』の料理人ヴィットリオさんが焼いてくれたのだという。


「病人にチーズは少し重いかも――」


 と、言っている途中にスセリがピザを一切れ口に運ぶ。


「絶品なのじゃ」

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