99-5
「フレデリカさま、ごきげんよう」
「ごきげんよー、プリシラー」
ぺこりとおじぎするプリシラ。
ひらひらと手を振るフレデリカ。
「学校からの帰りですか?」
「そだよー。今日は午前中で授業が終わったんだー」
「なら、家に帰ったら宿の手伝いだな」
「そんなわけないじゃないですか」
フレデリカがわざとらしく心底驚いた顔をする。
「勉強するのか?」
「友達から借りた小説を読むんですよ」
カバンから本を出す。
確かこの小説、最近王都で流行っている恋愛小説だ。
マリアも読んでいたのをおぼえている。
「はー、私も物語の主人公みたいな恋愛がしたいなー」
「したらいいじゃないか。フレデリカはかわいいから相手なんてすぐに見つかるだろ」
と言うと、フレデリカがぎょっとする。
俺をまじまじと見ている。
「アッシュさんて、無自覚に平然とそんなこと言いますよね」
「そうなんです!」
ぐいっと前に出てくるプリシラ。
もげそうなほど首を縦に振っている。
「アッシュさまはそういうお方なんですっ」
「だよねー」
「わたしやマリアさまの気持ちなんてろくに理解しようともせず!」
これは非難されているのだろう……。
居心地が悪い……。
「アッシュさん。プリシラやマリアさんを傷つけちゃダメですからね」
「き、肝に銘じておく……」
「ところで――」
フレデリカが俺とプリシラの背後にある薬屋に目をやる。
「アッシュさん、体調悪いんですか?」
「俺じゃなくてスセリがな」
「スセリさまが風邪を引かれたのです」
「あの子でも風邪引くんだねー」
あの子『でも』とはあんまりな言い草だが、内心俺は同感していた。
「具合はひどいんですか?」
「いや、医者に診てもらったけど、ちゃんと安静にしていれば治るらしい」
「そっか。よかったですね」
今頃あいつはベッドに横になりながら端末でゲームでもしているのだろう。
「私もお見舞いに行ったほうがいいかな」
「いや、風邪が移ったら大変だから気持ちだけ伝えておくよ」
「じゃあ、私の作ったお菓子をお見舞いの品として持っていってください」
見舞いの品を受け取りに俺とプリシラとフレデリカの家に行く。
「あ、冷蔵庫」
なんと、フレデリカの家には冷蔵庫があった。
冷蔵庫とはその名のとおり、魔力で内部を冷却する入れ物だ。
貴族の家ならともかく、一般市民のフレデリカの家にあるとは驚きだ。
「ラピス王女さまからもらったんだー」
フレデリカは王族のラピス王女と友達なのだ。
だから冷蔵庫を手に入れられたんだな。




