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「アッシュさま。今、いい加減にリンゴを取ろうとしましたね」
プリシラは真剣な表情をしている。
「リンゴにも良し悪しというものがあるのです。しっかりと見極めて選ばないといけませんっ」
「わ、わかった……。プリシラ、頼む」
「おまかせくださいっ」
プリシラが胸を張ってうなずいた。
鋭いまなざしで、ためつすがめつリンゴの山を見つめるプリシラ。
俺は隣でじっと待つ。
……結構、いや、かなり長い時間、プリシラはリンゴの山とにらめっこしている。
目の前に座る店主も苦笑いしている。
俺も実のところ退屈だった。
「プリシラ。いいのは見つかったか?」
「うーん、そうですね……」
「そ、そろそろ決めてほしいんだが……」
「では、これにしましょう」
山の中にあるリンゴのひとつを手に取った。
俺と店主は同時に安堵の息をついた。
「お嬢ちゃん、いいのを選んだね」
「てへへー」
俺には有象無象のひとつにしか見えないが、店主がそう言うのならきっといいものなのだろう。
それからプリシラはもう二つ、リンゴを選んだ。
合計三つ、俺たちはリンゴを買ったのだった。
「がんばって選んだお嬢ちゃんのために安くしておくよ」
「ありがとうございますっ」
「お嬢ちゃん、貴族のメイドさんかい? そっちの彼がおぼっちゃんか」
「実はこちらの方、ランフォード家のお方なのですっ」
「へー、そうかい」
適当にあいづちをうつ店主。
まあ、普通の人にランフォード家なんて言ってもわからないだろう。
プリシラは自慢げなドヤ顔をしていた。
そのあとは薬屋へ。
医者から受け取っていた処方箋を薬師に渡す。
「王都では直接お医者さんがお薬をくれるわけじゃないんですね」
「医者は医学の専門家で、薬学の専門家じゃないからな」
法律では医師が直接薬を処方するのは禁じられているのだが、田舎では昔からの風習が根強く、医者が直接患者に薬を与えているところが多いらしい。
「お待たせしました。こちらがお薬になります」
薬師が薬を持ってくる。
「お薬を飲む方の年齢はおいくつですか?」
そう尋ねられて俺は悩む。
この場合、肉体的な年齢だよな……。
「えっと、12歳です」
スセリが聞いたら腹を立てるだろうな……。
「でしたら、一度に飲むのは一錠までにしてください」
さて、用事は済ませた。
あとはスセリとマリアの待つ『シア荘』に帰るだけだ。
薬屋を出て帰路に着こうとしたところ、顔見知りに会った。
「あー、アッシュさんにプリシラじゃないですかー」
宿屋『ブーゲンビリア』の看板娘フレデリカだった。
学校の制服を着ている。




