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けど、スセリはかなりつらそうだ。
免疫なんて言っていないで一刻も早く治すべきだと俺は思っていた。
「古代文明では、病原菌という病気の元になるものをあえて接種して免疫を獲得しておったくらいじゃ。免疫とは大事なものなのじゃよ」
スセリの顔は熱で真っ赤だ。
このまま病状が悪化しないだろうか、心配だ。
「この少女の肉体は、まだ病に対する免疫をほとんど獲得しておらん。ちょうどいい機会じゃから風邪にうなされておくのじゃ。それに――」
「それに?」
スセリがほくそ笑む。
「ワシがしおらしくしておれば、アッシュはやさしくしてくれるじゃろ?」
……呆れた。
だが、否定はできない。
俺も情けないな。
「……食べないものはないか?」
「みずみずしい果物がいいのじゃ」
「わかった。買ってくる」
「それと、解熱剤も頼むのじゃ」
「え? やっぱり治すのか?」
「風邪を治すのと解熱させるのは別じゃ。頼むぞ」
俺が部屋を出ると、部屋の前でプリシラとマリアが心配そうな面持ちをしていた。
「スセリさま、だいじょうぶですの?」
「命に別状はないようだから、数日安静にしていれば治ると思う」
二人はそれを聞いて少し安心したようすだった。
「解熱剤を買ってくる。その間、スセリを見ててくれ」
「薬だけじゃいけませんっ。お医者さまを呼びましょうっ」
「確かに、それがいいかもな」
「わたし、行ってきますっ」
しばらくしてプリシラが街の医者を呼んできた。
医者が部屋に入ってくると、スセリは呆れてため息をついた。
「こんなもの寝ておれば自然と治るというのに、おぬしらは……」
「お嬢ちゃん。そんなこと言っちゃだめだよ。怖くないからね」
「お、『お嬢ちゃん』じゃと……」
医者の態度は完全に小さな少女に対するそれだった。
医者は聴診器を胸に当てたり口の中を見たりしてスセリの診察をした。
スセリは医者の診察にしぶしぶ応じていた。
「ふむ、ただの風邪だね」
「ほら、言ったじゃろう」
「解熱剤を処方するから、食後に飲むんだよ。苦くないからね」
「……苦いのは別に平気なのじゃ」
「そうなのかい。えらいえらい」
医者がスセリの頭をなでた。
スセリはもう、いろいろとあきらめたようすでなでられていたのだった。
医者が帰った後、俺とプリシラは市場に足を運んでいた。
「スセリの食べさせる果物、なにがいいかな」
「病人にはリンゴですよ。アッシュさま」
「そういうものなのか」
「はいっ」
リンゴを売っている露店で品定めする。
木箱の中に山のように積まれたリンゴ。
俺はその中のひとつに無造作に手を伸ばす。
ところがいきなりプリシラが俺の手首をがしっとつかんだ。
「プリシラ!?」




