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スセリがあくどい笑みを浮かべる。
「プリシラもマリアも、実は虎視眈々と狙っておるのじゃろう? 相手を出し抜き、アッシュを我が物にせんと」
「わたくしたちの友情に亀裂を入れるまねはやめてくだらない!?」
本当に意地悪だな、スセリは……。
「のじゃじゃじゃじゃっ。のじゃ――こほっ」
高笑いしていたスセリが咳をする。
己の体調の違和感に眉をひそめるスセリ。
「ん……? こほっ、こほっ」
「どうした? スセリ」
「なんだかのどがイガイガするのじゃ。こほっ、こほっ」
「変な笑いかたをしてるからじゃないか?」
「笑いかたは関係ないじゃろ……」
スセリは何度も咳をする。
「風邪を引いたのではありませんこと?」
「うーん、風邪を引くようなことをしたおぼえはないのじゃがのう」
いや、俺には心当たりがある。
プリシラとマリアには秘密にしているが、スセリはわりとしょちゅう、夜中に俺の部屋に忍び込んできて一緒に寝ようとしてくるのだ。
そして彼女は寝るとき、パジャマを脱いで下着姿になるのである。
ひどいときは全裸だ。
そんな格好で寝ていてはいつか風邪を引いてもおかしくない。
翌朝。
「スセリさま、部屋から出てきませんね」
朝食の時間になってもスセリは部屋から出てこなかった。
心配になって彼女の部屋の前に行くと、ドア越しにゴホゴホと咳をする声が聞こえてきた。
ドアをノックする。
「スセリ、だいじょうぶか?」
「だいじょうぶではないのじゃ……。ゴホッ、ゴホッ」
部屋に入ると、スセリはベッドに横たわってしきりに咳をしていた。
顔を覗き込む。
真っ赤だ。
額に手を当てると、かなり熱かった。
明らかに熱が出ている。
スセリは風邪を引いていた。
俺は食卓に戻るとプリシラとマリアに説明し、冷たい水をもらった。
スセリはすぐに水を飲みほした。
「感謝するのじゃ」
「しばらく安静にしていろ」
「うむ……。ゴホッ」
それにしてもつらそうだ。
すぐに薬を飲ませてあげないと。
いや、それよりも……。
「スセリ。魔法で風邪を治すことはできないのか?」
「……結論から言えば『できる』のじゃ。医療魔法は禁呪級の超高位魔法じゃが、魔書『オーレオール』があればできるじゃろう。じゃが」
スセリは言う。
「魔法は使わん。自力で治す」
「どうしてだ?」
「この際じゃから免疫を獲得するのじゃ」
メンエキ……?
聞きなれない言葉に俺は首をかしげる。
「人間の身体というものは、病にかかるとそれ以降、その病に対する耐性を獲得するのじゃ。それを免疫という」
「つまり、自力で風邪を治して免疫を手に入れると?」
「うむ」




