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生い茂る藪をかき分けて俺たちは林の深いところまで入っていく。
人が通る道からは完全に外れ、立ち並ぶ木々によって海の景色ももはや見えない。
こんなところにどうして女の子の親子がいるのか。
先頭を走る女の子を追いかけながら、俺はふと疑問に思った。
そして、その疑問はもっと早くに思うべきだったと、すぐに思い知らされた。
木の生えていない、開けた場所に出てきた。
周囲は林に覆われている。
不気味なほどに静まり返っている。
女の子は俺たちに背を向けたまま立ち止まっている。
「えっと、魔物はどこにいるのですか?」
プリシラが尋ねるも、女の子は答えない。
女の子が振り返る。
すると、彼女はいきり猛烈な勢いで走りだし、俺たちの間を抜け、もと来た方角へ走り去った。
女の子の姿はあっという間に藪の中へと消えてしまった。
なにがどうなってるんだ……。
取り残され、あ然とする俺たち。
――いかん! 罠じゃ!
魔書『オーレオール』の中からスセリが叫んだ。
――アッシュ! 魔法を唱えるのじゃ!
「しょっ、障壁よ!」
わけがわからないまま、俺は頭の中に流れ込んできた呪文を唱えた。
俺とプリシラ、ディアの三人を囲むように半円形の魔法の障壁が出現する。
そして次の瞬間、林の中から飛んできた鋭い物体が障壁に突き刺さった。
矢だ!
俺たちの身代わりとなって矢を受け止めた魔法の障壁が消滅する。
あの矢は俺たちめがけて飛んできた。
誰かに狙われているのか!?
魔物は……女の子の母親はどこにいるんだ!?
「ていやーっ!」
プリシラが足元に転がっていた石を拾い、矢が飛んできた方に投てきした。
「ぐあっ!」
林の奥から誰かのうめき声が聞こえた。
「まだいます!」
木々の陰から人影が飛び出てくる。
数は三人。
三角形の位置取りで俺たちを包囲している。
その三人はいずれも丈の長いローブを身にまとっており、頭にはフードをかぶっていて、正体を完全に隠している。
何者なんだ、こいつら……。
一つだけ確かなのは、三人が俺たちの命を狙っているということ。
三人ともその手に短刀を握っていた。
「……クロノスの放った暗殺者です」
三人をにらみつけながらディアがそう言った。
クロノス……。兄たちを謀殺したガルディア家の四男、クロノス・ガルディアか!
正妻の娘であるディアはガルディア家の家督相続の第一候補。
クロノスはその命を狙って暗殺者を放ってきたのだと、今さらになって気付いた。
――あの小さな娘も、おぬしらをここに誘い出すためにこやつらが金で雇ったのじゃろう。母親が魔物に襲われているなどまったくのデタラメじゃ!
そういうことか……。
三人の暗殺者は短刀の切っ先を俺たちに向けつつ、じりじりと包囲を狭めてくる。




