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「あがってあがって! お茶とお菓子を用意するからねっ」
家に上がると、中はしっかりと整理整頓、掃除されていた。
清潔な家だ。
「あ、アッシュお兄ちゃんたち」
家にはシュロもいた。
黒を基調とした落ち着いた、少し大人びた衣装を着ている。
とても彼女に似合っている。
「会いにきてくれたんだね」
「シュロたちのことが気になってな。ここでの暮らしは楽しいか?」
「すごく楽しい。ミリアとはいつもいっしょだし、イルルお姉ちゃんはやさしいし」
シュロはここでの暮らしをうれしそうに話してくれた。
話を聞く限りではイルルが母親役で、シュロとミリアは姉妹のようだ。
一人として血はつながっていないが、仲良く暮らしているようで安心した。
「シュロ。なにか思い出したりしたことはないか?」
俺は一つの懸念を質問する。
「ないよ」
シュロはやはり、魔王としての記憶は初めから持ってないようだ。
そのほうがいい。
まっさらであったほうが彼女の人生にはちょうどいいから。
「ねーねー、アッシュさん」
ミリアが俺を呼ぶ。
「わたし、お姉ちゃんに会えたんだよ。お父さんとお母さんに内緒で会いにきてくれたんだ!」
「本当か! よかった……」
「お姉ちゃんもずっとわたしに会いたかったんだって。お父さんとお母さんを説得して、わたしを家に帰してくれるって言ってくれた」
でも、とミリアは続ける。
「それは断ったよ。わたしの家はここだもん」
ずっと会いたかった姉。
そんな家族との暮らしよりも大切なものをミリアは手に入れたのだ。
「アッシュさん。ようこそ我が家へ」
イルルが現れた。
ブレイクさんの話によると、彼女は翻訳の仕事をしているとのこと。
機械人形に備わっている機能で完璧にこなせるらしい。まさに天職だ。
「ふしぎなものですね。生まれた場所や時代すら違った私とミリア、シュロは今、家族となって一つの家に住んでいます」
それが運命というものだろう。
運命の糸はときとして思いもよらぬものをたぐり寄せる。
信じられなくてもそれは必然なのだ。
「あらためてお礼を言わなくてはなりませんね」
「俺からブレイクさんに言っておくよ」
「いえ、アッシュさん。あなたにです」
「俺にか?」
今回ばかりは俺は大して役に立っていない。
シュロを救ったのは確かだが、彼女たちに住む場所をあてがったのはブレイクさんだ。
「私を目覚めさせたのはアッシュさん。シュロを救うと決断したのもアッシュさん。ミリアと最初に知り合ったのもアッシュさんです。私たち三人に共通する点が一つあるとすればアッシュさん。あなたと知り合ったことですから」
イルルがにこりと笑う。
俺は照れくさくなって頭をかいた。
遺跡の探索も無事に完了して、プリシラも地図を描き上げてくれた。
俺たちはやるべきことを完了し、王都へと帰ったのだった。




