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98-6

「わたしとシュロちゃんとイルルお姉さん。三人家族だねっ」


 ミリアが二人の手を取る。

 シュロもイルルもうれしそうだ。


「……あっ」


 なにかに気付いたミリアがはっとなる。

 後ろを振り向く。

 振り向いた先ではエルドリオンがミリアをじっと見つめていた。


「エルドリオン!」


 ミリアがエルドリオンのもとに駆け寄る。


「エルドリオンもいっしょに暮らそうよ。四人家族だよ」


 むじゃきにそう提案するも、エルドリオンは首を横に振った。


「……それはできぬ」

「どうして!」

「我は竜。人間ではないのだ」

「人間じゃなくたって家族になれるよ」

「……ミリアはやさしいな」


 エルドリオンはミリアから顔をそらす。


「しかし、我は共には暮らせぬのだ。この竜の姿を見れば人々は我を恐れるだろう。そうなればお前たちや、家を貸してくれるブレイクにも迷惑がかかる」

「それは……」


 しょぼんとうなだれるミリア。


「それにミリア。我は人間が嫌いだ。それらが群れる場所で暮らすなどがまんできぬ。我は巣のある山へと帰らせてもらう」

「エルドリオンはさみしくないの? わたしといっしょにいたくないの?」

「……ミリア。常にそばにいることばかりが、愛やきずなの証明とは限らぬのだ。お前にはまだわからぬかもしれぬが」


 エルドリオンの声がやさしくなる。

 大事な子をなだめる親の声だ。


「どこにいようと、どれだけ離れていようと、我はミリアを大事な家族だと思っている。人間は嫌いだが、ミリアは別だ。だからミリア。お前は新たな家族と共に暮らすのだ」


 ミリアは納得がいっていないようだ。

 反論したげにうつむいている。

 ただ、エルドリオンの思いも理解しているらしい。


 いっしょに暮らしたいが、友の自分たちへの気づかいもわかる。

 そんな彼女の葛藤が伝わってくる。


「……週に一度は会いにいくね」

「ああ。楽しみに待っていよう」


 エリドリオンが翼を広げる。

 翼を羽ばたかせて飛翔すると、巣のある山へと飛び立っていった。


 通行料をせしめる竜と少女はその日以来、跳ね橋からいなくなった。

 ヴォルクヒルの名物のひとつがなくなったのを残念がる住人もいたし、余計な通行料を払わなくてよくなったのをよろこぶ住人もいた。



 それから数日後。

 ヴォルクヒルに来るときの列車で約束した四人でのデートを俺たちはしていた。


 俺とプリシラ、スセリにマリア。

 いつもの四人でヴォルクヒルの町を散歩して遊んだ。

 これがデートと言えるかは怪しいところだったが。


 そのデートで俺たちはイルルたちの住む家を訪問した。

 イルルとシュロ、ミリアの三人で暮らす家は、中流層の住人が住む地区にあった。


「結構立派な家じゃの」

「ブレイクさん、こんなすてきな家を用意してくださったのですね」


 門をくぐって敷地内に入り、玄関のベルを鳴らす。


「どなたですかーっ」


 出迎えてくれたのはミリアだった。


「あーっ、アッシュさんたち! こんにちはっ」

「こんにちは、ミリアさま。本日はお顔を拝見しに参りましたっ」

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