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そして今、俺たちはスセリが作った異世界にいた。
以前、セヴリーヌたちとボードゲームをしたときのように、スセリはいともかんたんに異世界を魔法で作り出したのだった。
周囲は廃墟。ビルと呼ばれる古代文明の塔がいくつもある。
彼女が言うに、異世界を廃墟にしたのに深い意味はないらしい。
別に真っ白な世界でもよかったのだが「そのほうが雰囲気が出るじゃろ」とのこと。
異世界をきょろきょろと見渡すのは俺とスセリ、プリシラにマリア。そして機械人形のイルル。
ブレイクさんにはもしものときのために、現実世界のほうで待ってもらっている。
「それにしても、もう一刻の猶予もなかっただなんて」
イルルが抱えている魔王のたまご。
その殻にはすでに亀裂が走っていたのだ。
孵化は間もない。
「こ、ここから魔王が生まれるのですね……」
ぞっとした表情のプリシラ。
「ひょっとすると今日が世界滅亡の日になるかもしれんの」
「縁起でもないことを言わないでくださいまし」
「じゃが、全員無事で解決するとは思わんことじゃな」
「お、おどさないでくださいっ。アッシュさまがいる限り、わたしたちは誰一人として失いませんっ」
プリシラが俺のほうを向く。
「ですよねっ、アッシュさまっ」
「ああ」
本当のところは俺だって無傷で魔王に勝てるとは思っていない。
それでも俺はみんなを安心させたかった。
ほっとするプリシラにマリア。
スセリは「やれやれ」と肩をすくめていた。
「みなさん、魔王が生まれようとしています」
イルルの抱えているたまごがうごめいている。
おぞましい、邪悪な気配を感じているのは俺だけではないはず。
プリシラとマリアが俺の服の裾をつかんでくる。
「イルル。たまごを置いてくれ」
「かしこまりました」
イルルは俺たちから少し離れ、平らな場所に魔王のたまごを置いて戻ってきた。
たまごが孵化する瞬間を、固唾をのんで待つ。
たまごは不気味にうごめいている。
ピシッ、ピシッ、と次々と殻にヒビが走っていく。
おそろしいことに、ヒビの隙間から瘴気のような黒いもやが漏れ出てきている。
邪悪なる王の誕生を演出しているかのよう。
次の瞬間、亀裂の入る速度がいきなりすさまじい勢いになりだした。
それに合わせ、黒いもやも夜をもたらすかのように勢いよく噴出していく。
「アッシュさま!」
「アッシュ!」
「みんな、俺の後ろに隠れるんだ!」
黒いもやは一気に周囲に立ち込めていき、異世界を闇で包んだ。
真っ暗闇となり、完全に視界を奪われてしまった。




