97-2
「手のひらを乗せるのが間違ってたのでしょうか」
「いや、合っておるのじゃ」
今度はスセリが台座に手のひらを乗せる。
やはりマリアのときと同じく、台座は赤く発光して女性の声が聞こえてきた。
「これは生体認証といってな、あらかじめ決められた人間の手をカギにしておるのじゃ」
「『あらかじめ決められた人間』って?」
「おそらく、この遺跡の関係者じゃな」
だとすれば、この先は通れない。
遺跡の関係者なんて遥か昔に死んでいる。
「こじ開けるのは無理かしら」
「力ずくは危険かと」
強引に開けようとして遺跡が崩落したら危険だ。
「残念ですが、あきらめるしかありませんね」
「いや、アッシュなら開けられるのじゃ」
「お、俺……?」
俺は自分を指さす。
スセリがうなずく。
「魔書『オーレオール』には古代文明の電子ロックを解除する魔法も記されておるのじゃ」
「そんな魔法まであるのか」
「不老不死の研究には、古代文明の遺跡を調べる必要もあったからの」
俺は魔書『オーレオール』を出す。
「よし、それではアッシュの手を台座に置くのじゃ」
台座に手を置く。
精神を集中させる。
魔力が手のひらから放出されていくのを感じる。
「目を閉じ、頭に流れ込んでくる『イメージ』をとらえるのじゃ」
目を閉じると、頭の中にふしぎな光景が浮かんできた。
俺は今、古びた屋敷の前にいる。
屋敷の門にはカギがかかっている。
俺は手に鍵束を持っている。
そこから一つ一つカギを選び、門の鍵穴にさしていく。
いくつか試していくと、カチャリと音を立ててカギが回った。
門がギィとさびた音を立てて開いていく。
そこで頭の中の光景が消える。
目を開けて現実に意識を戻す。
見てみると、手のひらを乗せていた台座が青く発光していた。
頭上から女性の抑揚のない声。
目の前の扉がゆっくりと開きだした。
「開いちゃいました!」
「すごいですわね、アッシュ。あなた、大泥棒になれますわよ」
「電子ロックを破る『イメージ』ができたようじゃな」
これで先へ進める。
厳重な封印が施されていたことから、大事なものがあるのだろう。
足を踏み入れた俺たちはそろって「あっ」と声を上げた。
たまごがあった部屋と同様、部屋の壁には機械が設置されていた。
そして部屋の中央には円筒型の水槽があった。
水槽の中には――人間が入っていた。
髪の長い少女。
眠るように目を閉ざして水槽の中に入っている。
「に、人間です……」
「死んでいますの……?」
「わからん」
「古代文明の人間か?」
俺たちはあぜんとしながら水槽の少女を見ていた。
そうしていると、少女がいきなり目を開いた。
機械から音が鳴る。
水槽の水が少しずつ減っていく。
水がすべて排出されると、水槽のガラスがせり上がり、少女と俺たちを隔てるものがなくなった。
少女が一歩、歩いてくる。
俺と目が合う。
それから少女はこう言った。
「たまごはどこですか」




