96-6
「待ってください!」
俺は玄関の扉を何度も叩く。
返事はないが、ひたすら叩く。
こんな結末はあんまりだ。
「もういいよ、アッシュさん」
ミリアが言う。
振り返ると、ミリアは目に涙を浮かべていた。
「もう、いいの」
目から涙がこぼれ、頬を伝って落ちる。
「こうなるような気はしてたから」
「いっしょうけんめいお金を集めたんだろ」
「おうちの借金をわたしが返せるなら、お父さんたちもわたしを家に帰してくれるって思ってた」
何度もしゃくりあげる。
「でも、そんなくらいじゃダメだったんだね」
「ミリア……」
箱の中に入っているのは小銭ばかり。
ミリアの家の借金がいくらかはわからないが、これがどれだけあったとしても借金はおそらく返済できないだろう。
それでも、これがミリアのせいいっぱいだったのだ。
捨てたとはいえ、あの態度は父親が娘にするものではない。
俺は悲しみと憤りをおぼえていた。
どうにかして彼女の父親ともう一回話をさせてあげたかった。
「帰ろう。アッシュさん」
「いいのか?」
「いいの」
胸が痛くなるような笑みを見せるミリア。
「わたしにはエルドリオンがいるもん」
それからこう続ける。
「もう、通行料をもらうのはやめるよ」
「ミリア……」
「エルドリオンの巣でエルドリオンとずっと暮らすから」
「お姉ちゃんに会いたくないのか……?」
「お姉ちゃんはわたしに会いたくないと思うから。お父さんみたいに」
ミリアは外に向かって歩き出す。
門をくぐって外に出てしまった。
そうして俺とミリアは北門の跳ね橋に帰ってきた。
「ミリア。大人というものはしょせんそういうものなのだ」
エルドリオンはこの結末を予想していたらしい。
「すまない、エルドリオン。俺がいながら……」
「貴様のせいではない。すべては身勝手な人間のせいだ」
エルドリオンがかがむ。
ミリアは彼の背中に乗った。
翼を羽ばたかせると、彼女を乗せたエルドリオンは飛翔した。
はるか上空まで上昇すると、遠くの山に向かって飛んでいった。
次の日、不安になって北門に行ってみると、相変わらず少女と竜は通行料を徴収していた。
「生活のためにはお金が必要だからね」
「ミリアはエルドリオンの巣で暮らしているのか?」
ちゃんと人間が暮らせるような場所なのか、ずっと心配だったのだ。
「近くにね、小屋が建っててそこに住んでるの。ベッドもちゃんとあるし」
一応それで安心した。
でも、こんな生活をいつまでも続けるわけにはいかない。
ギルドで地図作成の進捗を報告するとき、ミリアについてギルド長のブレイクさんに相談した。




