96-4
あくる日、俺はミリアのことが気になって北門に寄った。
そこにはやはり、跳ね橋を占拠して通行料をせしめる彼女と、竜のエルドリオンがいた。
「ここを通るには通行料を払ってくださーい。さもなくばエルドリオンの炎でこんがり焼いちゃいまーす」
「通行料を置いていけ。さもなくば消し炭だ」
通行人たちは、ミリアはともかくエルドリオンには逆らえず、通行料を支払っていくのだった。
彼女たちが賢明だったのは、通行料が安いことだった。
おかげで無用な争いが起きず、領主のお咎めも回避できていた。
「あー、アッシュさんだー」
ミリアが俺の存在に気付く。
彼女は抱えていた箱を持ちながら俺のところに駆け寄ってきた。
「ねーねー、聞いて聞いて。もうすぐお金が集まりそうなの」
ミリアはうれしそうにそう告げる。
「へえ、いくら集まったんだ」
「えっとね。だいたい――」
金額を教えてもらうと、なかなかの額だった。
通行人は多いとはいえ、そこまでの金額が集まるとは……。
「ミリア。お前がお金を集めている理由、わかったよ」
「あててみて」
ミリアがお金を集めていた理由。
それは家を買うためだ。
捨てられた自分が暮らすための、新たな居場所を彼女は求めていたのだ。
俺はそう答える。
しかし、ミリアには「はずれー」と言われてしまった。
「でも、ちょっとおしかったよ」
「いい加減、答えを教えてくれないか」
「そうだね。アッシュさんにならおしえてもいいかな。その代わり――」
「その代わり?」
「わたしについてきて」
「わかった」
俺とミリアはエルドリオンのところまでいく。
「エルドリオン。今までいっしょにいてくれてありがとうっ」
「礼などいらぬ」
「目標の金額までお金がたまったから、行ってくるよ」
「ああ。よい結果になるといいな」
「てへへ」
「ときに貴様」
エルドリオンの視線が俺に向けられる。
「アッシュといったか。貴様に少し話がある」
「ああ、いいぞ」
「ミリア、先に門の向こうに行っているがいい」
「わたしには聞かせられないの?」
「すまない」
「んーん、いいよっ。アッシュさん、先に門の先で待ってるねっ」
ミリアが門に向かっていく。
彼女がじゅうぶん遠くまで行くと、エルドリオンは再び俺に話しかけてきた。
「ミリアはおそらく、つらい目にあうだろう」
「え……」
「彼女は子供だ。お金さえあれば解決するだろうと思っている。だが、現実はそう甘くはない」
「おしえてくれ。ミリアがお金を必要としていた理由」
「それはすぐにわかる。私の口から言うより、己の目で見たほうがいいだろう」




