96-3
宿屋に帰るとスセリがいた。
なぜか俺の部屋に。
もっとも、こんなこと今までいくらでもあったから動じないが。
スセリはベッドに寝転がって端末を操作していた。
またゲームだ。
暇さえあれば――いや、暇がなくても彼女はゲームばかり。
「おかえりなのじゃ」
俺のほうには目もくれずそう言った。
「ああ、ただいま」
「……ん?」
スセリがちらりとこちらを見ると、ふしぎそうに首をかしげる。
「よいことでもあったのか?」
「わかるか?」
先ほどミリアに会った話を彼女に聞かせた。
「なるほど。おぬしの金属召喚が役に立ったのじゃな」
自慢というわけではなかったが、俺の金属召喚が誰かの役に立てたことを知ってもらいたかったのだ。
スセリには特に。
「よかったの。なでなでしてやるのじゃ」
ニヤリとするスセリ。
……。
……。
「ホ、ホントにしてほしいのわけではるまい?」
俺が黙ったままでいたからスセリもさすがに動揺した。
俺流のからかい返しだ。
「なでなではいらないが、ほめられたかったんだ」
「……うむ。おぬしもいろいろ苦労したからの」
「昔はこの金属召喚が誰かをしあわせにするなんて思いもしなかったから」
王城に務める優秀な召喚術師を多数輩出してきたランフォード家。
俺だけがなぜか召喚獣を呼べず、金属しか召喚できなかった。
そのせいでずいぶんひどい扱いをされてきた。
もっとも、今はこの能力に感謝しているが。
金属召喚があったから、今の仲間たちと冒険が出来ている。
「スセリ。もしかしてお前は知っているんじゃないか? 俺が金属しか召喚出来ない原因を」
「んー」
考えるそぶりを見せてから彼女はこう返事をした。
「知らんのじゃ」
なら、その長考はなんなんだ……。
問いただしたところで彼女のことだ。真実は言うまい。
「それよりもアッシュ、交代じゃ」
「はいはい」
スセリから端末を受け取る。
今度は俺が経験値を稼ぐ番だ。
「一つ聞いていいか? 経験値を稼いでレベルアップして、強い魔物を倒す。それって意味あるのか?」
「おぬしは趣味や暇つぶしに高尚な意味を求めるのか?」
「……ごもっとも」
「しいて言うなら、見栄じゃ」
このゲームにはランキングという機能があり、レベルなどの数値で順位が付けられている。
ランキングに参加しているのはこのゲームで遊んでいるすべての人間。
セヴリーヌやフーガさんもその中にいる。
「あとは頼むぞ。ワシは寝るのじゃ」
「自分の部屋で寝てくれ」
といっても従ってくれないことは知っている。
スセリは俺のベッドですやすやと眠る。
添い寝をしろ、と言いたげに、俺が寝れる分の隙間を空けて。