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96-2

 そう言うと「うーん」と悩みだすミリア。

 かわいいしぐさだ。


「別にお礼なんていらないさ」

「そういうわけにはいかないよ。親切にされたらちゃんとお礼をしなさい、ってお姉ちゃんに言われたんだ」

「お姉さんのことが好きなんだな、ミリアは」

「うん。大好きっ」


 笑顔でそう答える。

 ところがすぐに表情を曇らせる。


 うかつなことを言ってしまった。

 ミリアはその家族に捨てられたのだった。


「会いたいな、お姉ちゃん」

「いつか会えるさ」


 なんて無責任な返事だ。

 俺は自嘲する。


「そうだねっ。いつかあえるよ。お金だって少しずつ貯まってきたし」

「それって――」

「あっ!」


 失言だったのにミリアは気付いた。

 慌てて話題を変える。


「そ、そうだっ。アッシュさんにお礼だったね。いいところに連れてってあげるっ」


 ミリアに強引に手を引っ張られた。

 連れてこられたのは街の広場。


「ちょうどいい時間だったよー」


 公園では街の人たちが思い思いに憩いの時間を過ごしている。


 白い石畳。

 花壇に植えられた色とりどりの花。

 立派な噴水。


 王都にも負けないくらいきれいな公園だ。

 余暇を過ごすにはうってつけの場所だ。


「あれを見て」


 ミリアが上のほうを指さす。

 さした指の先には時計台があった。

 ちょうど長針が頂点に達する。


 すると、時計の下部がぱかった割れ、なかから人形が現れた。

 人形は楽器を持った兵隊で、愉快な音楽を演奏しだした。

 公園にいる人たちがみんなそれに注目する。


「一時間経つとね、こうやって音楽を鳴らして教えてくれるの」


 ひとしきり音楽を鳴らすと、兵隊の人形たちは時計台の中に帰っていった。

 開いた下部が閉じる。


「ははっ。面白いな。いいものを見せてくれてありがとう、ミリア」

「どうしたしまして。てへへー」


 それからこう耳打ちしてくる。


「今度はスセリさんとくるといいよ」

「そ、それは……」

「てへへ。デートにちょうどいいでしょ」


 やはりあのとき否定しておくべきだったか。


「それじゃ、わたしはエルドリオンのところに帰るね」

「また通行料を取るのか?」

「……うん」


 うつむき加減になって返事をするミリア。

 罪悪感はあるようだ。

 いけないことをしている自覚があってよかった。


「お金が必要なら、俺が――」

「んーん。それはわたしがやらなくちゃいけないことだから」


 そのセリフを口にしたときのミリアの表情は真剣だった。

 他人に立ち入らせない意思を感じる。

 だから俺はこれ以上深入りできなかった。


「わかった。ただ、助けが必要なら遠慮はしないでくれ」

「うんっ。そうさせてもらうねっ」

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