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そう言うと「うーん」と悩みだすミリア。
かわいいしぐさだ。
「別にお礼なんていらないさ」
「そういうわけにはいかないよ。親切にされたらちゃんとお礼をしなさい、ってお姉ちゃんに言われたんだ」
「お姉さんのことが好きなんだな、ミリアは」
「うん。大好きっ」
笑顔でそう答える。
ところがすぐに表情を曇らせる。
うかつなことを言ってしまった。
ミリアはその家族に捨てられたのだった。
「会いたいな、お姉ちゃん」
「いつか会えるさ」
なんて無責任な返事だ。
俺は自嘲する。
「そうだねっ。いつかあえるよ。お金だって少しずつ貯まってきたし」
「それって――」
「あっ!」
失言だったのにミリアは気付いた。
慌てて話題を変える。
「そ、そうだっ。アッシュさんにお礼だったね。いいところに連れてってあげるっ」
ミリアに強引に手を引っ張られた。
連れてこられたのは街の広場。
「ちょうどいい時間だったよー」
公園では街の人たちが思い思いに憩いの時間を過ごしている。
白い石畳。
花壇に植えられた色とりどりの花。
立派な噴水。
王都にも負けないくらいきれいな公園だ。
余暇を過ごすにはうってつけの場所だ。
「あれを見て」
ミリアが上のほうを指さす。
さした指の先には時計台があった。
ちょうど長針が頂点に達する。
すると、時計の下部がぱかった割れ、なかから人形が現れた。
人形は楽器を持った兵隊で、愉快な音楽を演奏しだした。
公園にいる人たちがみんなそれに注目する。
「一時間経つとね、こうやって音楽を鳴らして教えてくれるの」
ひとしきり音楽を鳴らすと、兵隊の人形たちは時計台の中に帰っていった。
開いた下部が閉じる。
「ははっ。面白いな。いいものを見せてくれてありがとう、ミリア」
「どうしたしまして。てへへー」
それからこう耳打ちしてくる。
「今度はスセリさんとくるといいよ」
「そ、それは……」
「てへへ。デートにちょうどいいでしょ」
やはりあのとき否定しておくべきだったか。
「それじゃ、わたしはエルドリオンのところに帰るね」
「また通行料を取るのか?」
「……うん」
うつむき加減になって返事をするミリア。
罪悪感はあるようだ。
いけないことをしている自覚があってよかった。
「お金が必要なら、俺が――」
「んーん。それはわたしがやらなくちゃいけないことだから」
そのセリフを口にしたときのミリアの表情は真剣だった。
他人に立ち入らせない意思を感じる。
だから俺はこれ以上深入りできなかった。
「わかった。ただ、助けが必要なら遠慮はしないでくれ」
「うんっ。そうさせてもらうねっ」




