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「あー、アッシュさん!」
急に名前を呼ばれた。
振り返ると、そこには小さな女の子がいた。
竜と共に商売をする少女、ミリアだった。
ミリアが近寄ってくる。
それと同時に、スセリがようやく噛みきれた肉を飲み込んだ。
「おぬしはミリアか」
「二人でデートしてるの?」
「うむ」
「仲良しなんだねー」
否定するも面倒だったので特になにも言わなかった。
「アッシュさんたちって旅行にきたの?」
「いや、仕事だ。俺たちは冒険者で、遺跡の探索をしているんだ」
「冒険者! かっこいいー」
ミリアが目をきらきら輝かせる。
それからすぐはっとなる。
「魔物をやっつけたりしてるの?」
「してるな」
「エルドリオンをやっつけるように、領主さまに言われたりした……?」
「いや、それはないから安心してくれ」
「よかったー」
というか、逆だ。
エルドリオンとミリアのことは見過ごしていいと言われていた。
「わたしたちー、いっぱいお金を貯めなくちゃいけないんだー」
「理由を聞かせてくれないか?」
「それはひみつ」
ウィンクするミリア。
「なら代わりにこの質問に答えてくれ。悪事を働いているわけじゃないよな?」
「安心して。悪いことはしてないよ」
とりあえず一安心か。
もっとも、勝手に通行料を徴収しているのも悪事に含まれるのだが。
「ミリアよ。おぬし、どういういきさつでエルドリオンと組むことになったのじゃ?」
「エルドリオンは、お父さんとお母さんに捨てられたわたしを拾ってくれたんだよ」
驚くべきことにミリアはヴォルクヒルの貴族の娘だった。
しかし、彼女は半年前、とある理由で両親に捨てられたのだった。
その『とある理由』は、彼女の手の甲にある『あざ』のせいだった。
「このあざがね、家に悪いことが起きるしるしだって言われたの」
ミリアが手の甲を見せてくる。
彼女の小さな手の甲には、なにかの紋様に見えるあざがあった。
見方によってはなにか意味のあるしるしに見えるが……。
「スセリ。このあざは本当に悪いことが起きるしるしなのか?」
「魔力も特別な力も感じんのじゃ。ただの迷信じゃな」
「でも、お父さんもお母さんもわたしのこと嫌いだったから……」
こんな小さな少女が理不尽な目にあうなんて。
俺は憤りを抑えずにはいられなかった。
その表情でさとられてしまったらしく、ミリアは苦笑して首を横に振った。
「あのね、今の生活のほうが、エルドリオンといっしょに暮しているほうが楽しいの」
「でも……」
「アッシュさんてやさしいんだね。わたしのお兄ちゃんになってもらいたいな」




