95-2
「すばらしいよ!」
調査した部分の清書が終わり、確認のために見せるとブレイクさんは絶賛した。
「さすがは王都一の地図描き。完成するのを期待するよ」
「てへへー」
プリシラが俺の前にやってくる。
そして上目づかいでこうねだってきた。
「あ、あの、アッシュさま。ごほうびをください」
「なにが欲しいんだ?」
「『なでなで』をお願いします」
そ、それはちょっと恥ずかしいな。
てっきり買ってもらいたいものでもあったのかと思いきや……。
しかし、プリシラはがんばって地図を描いた。
そのごほうびはしっかりとあげないと。
俺はプリシラの頭をやさしくなでた。
「アッシュさまの手、気持ちいいです……」
なでられている間、プリシラは気持ちよさそうに目を細めていた。
「よし、次はワシじゃな」
「その次はわたくしですわよ」
「いや、二人はなでないから……」
ひとしきりなでられてプリシラは満足そうだった。
「では、引き続き地図の製作をがんばってもらいたいのだけれど、もうひとつ依頼をしてもいいかな?」
「俺たちにできることなら」
「よかった。階下へ続く道に機械人形や魔物がいたら、討伐してほしいんだ。あの遺跡はまだまだ下の階層があるから、調査を進めたいからね」
「わかりました」
戦いの心得ならじゅうぶんにある。
これまで多くの魔物や機械人形、それに人間とも戦ってきた。
討伐依頼くらいこなしてみせる。
次の遺跡探索は明日になった。
午後、時間が自由になった俺はスセリと街を歩いていた。
ヴォルクヒルの街は発展しているが、王都ほどではない。
目新しいものも特にない。
目立つのは視界の最奥に常に見える高い防壁だ。
本当に高くて分厚い壁だ。
魔物の襲撃は当然として、砲弾や魔法を食らってもびくともしないだろう。
「お、うまそうなものが売っておるのじゃ」
スセリが露店の前で立ち止まる。
露店では串に刺した肉が売っていた。
なんの肉だろう……。
「おじょうちゃん、かわいいね。安くしとくよ」
「2本買うのじゃ」
「はいよ。後ろの人は兄ちゃんかい?」
「夫なのじゃ」
「はははっ。旦那さんだったか!」
店主は冗談だと思っていたのであえて訂正はしなかった。
串焼きの肉を俺たちは手にする。
「これ、なんの肉なんです?」
「クマの肉さ。猟師が森で狩ってくるんだ」
獣の匂いが少し気になる。
思い切ってかじりつくと少し硬かったが、それがかえって食べ応えがあった。
プリシラやマリアはこういう料理は作らないから、たまにはこういうのもいいな。
「か、噛んでも噛んでも噛み切れんのじゃ。ゴムでも食っておるのかワシは……」
スセリはさっきからずっと口をもごもごさせていた。




