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俺たちはミリアに問い詰めるのをあきらめた。
こんな小さい子供を問い詰めるのもかわいそうだし。
「あ、あのっ。ごめんなさいっ」
ミリアが謝る。
「ミリア。謝る必要などない」
「でも、エルドリオン……」
「早々に失せよ。人間どもよ。さもなくば我が猛火で消し炭にしてやろう」
消し炭にされるのはごめんだ。
俺たちはミリアとエルドリオンの前から去った。
そしてヴォルクヒルの冒険者ギルドへ寄った。
王都のギルド本部からの要請で来たのだと告げると、しばらく待たされ、それから一人の若い男性が現れた。
「ヴォルクヒルへようこそ。僕はヴォルクヒルのギルド長をしているブレイク。よろしくね」
「アッシュ・ランフォードです。よろしくお願いいたします」
ブレイクさんはにこりを笑った。
その笑みから、彼が優しくて穏やかな人柄なのが伝わってきた。
争いを好まない人なのだろう。
「ブレイクよ。おぬし、ギルド長の割にはやけに若そうじゃの」
「もう30ですよ」
「30でギルド長は若すぎるじゃろ」
ギルド本部の長であるエトガー・キルステンさんも若いが、ブレイクさんも相当若かった。
こういうリーダーってもっと年配の人が就くものだとばかり思っていたが、冒険者ギルドではそうではないのだろうか。
「ところでブレイクさま。北門の跳ね橋で通せんぼしている竜なのですが……」
「ああ、彼女たちのことだね」
当然、ブレイクさんもミリアとエルドリオンのことは知っていた。
彼女たちを野放しにしていいのか尋ねた。
そして、もしよかったらその仕事を俺たちが引き受けるとも言った。
ところがブレイクさんは、
「その必要はないよ」
と首を横に振ったのだった。
「あんな小さな子供が竜といるのはたしかに気になる。でも、少なくともエルドリオンという竜はヴォルクヒルに利益をもたらしているんだ」
本来なら人間と敵対するはずの竜。
にもかかわらず、エルドリオンは人間に危害を加えてこない。
……通行料を払いさえすれば。
竜が都市にいることで野盗などの危険な連中が近づいてこないため、ヴォルクヒルの治安が守られているのだ。
図らずもエルドリオンはヴォルクヒルを守護する竜となっているのだった。
だからヴォルクヒルはエルドリオンとミリアの存在も黙認しているのだという。
「たしかに、竜がいる都市に近づこうなんて悪党はいないですわよね」
「徴収している通行料も大した額じゃないしね」
当面は、彼女たちは害を及ぼさないだろうとヴォルクヒルは判断していた。
だとすれば、俺たちが余計な首を突っ込むのは間違いだ。
……ミリアのことは少し心配だが。




