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「つまり、不法占拠と」
「ついでに違法な商売もやっておるのじゃな」
少女と竜は毎日ここで通行料を勝手に徴収しているのだという。
兵士の前で、堂々と。悪びれもなく。
「でも、どうしていきなりそんなことを?」
「わからない。ただ、通行料を支払っている限りは危険はない」
門番たちの前から離れた俺たちは少女と竜のところへ行った。
少女がとてとてと箱をもって近づいてくる。
「ここから先へ進むには通行料が必要ですっ。支払わなければエルドリオンの炎で消し炭にしちゃいまーすっ」
「あの竜、エルドリオンって名前なのか」
「はいっ。あ、わたしはミリアっていいます」
「俺はアッシュ。よろしく、ミリア」
「えへへー」
ミリアという名前らしい。
すなおでいい子そうだ。
俺はプリシラとマリア、スセリを順番にミリアに紹介した。
「王都から来たんだねっ。へー。王さまにも会ったー?」
「ああ。何度か会った。王女さまにもな」
「すごいっ。王女さま、きれい――」
「ミリア。人間を信用してはならぬ」
俺たちの会話をさえぎってエルドリオンが言った。
ミリアがけろっとした顔で返事をする。
「だいじょうぶだよ、エルドリオン。この人たち、いい人そうだもん」
「人間の本質は邪悪。心を許しては利用されるだけ」
ひどい言われようだ。
すなおなミリアとは正反対に、エルドリオンは人間をろこつに警戒している。
「人間たちよ。通行料を払ってさっさと立ち去るのだ」
「いえ、わたくしたちはここを通るために来たのではありませんことよ」
「なに」
マリアがびしっと指をさす。
「エルドリオン。ここで勝手に通行料を取るのは違法でしてよ。今すぐやめなさい」
「人間が勝手に作った法に従う義理はない」
人間の領地に踏み入っているのなら法に従うべきだと思うが……。
「人間のミリアに法を犯させてもよいと思ってますの?」
「それは……」
言いよどむエルドリオン。
二人の間に慌ててミリアが割って入る。
「けんかしないで! マリアさん、エルドリオンはいい竜なの」
「でも、ミリア……」
「わたしたち、どうしてもお金が必要なの」
「どうしてなのじゃ?」
「……」
ミリアは沈黙する。
エルドリオンも黙っている。
ここからさらに問いただして無理やり聞きだすべきか。
判断に悩んでいると、門番の一人が俺たちの前にやってきた。
「そのへんにしておいてあげな」
「いいんですか? この子たちを居座らせて」
「実を言うと、この子たちがここにいるのを領主さまは黙認してるんだ」
「えっ」
「詳しい話は冒険者ギルドで聞かされると思うよ。行って尋ねてみるといい」




