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外観に反して中身は思ったほど目新しいものはなかった。
大陸でもっとも繁栄している王都を拠点にしていたのだから、それはしかたないか。
「キミたち、観光客かい?」
立ち止まって街並みを眺めていると怪しげな男に声をかけられた。
無視すべきか……。
「いや、冒険者なのじゃ」
スセリが答えた。
「そうかい。冒険者ギルドまでの道案内をしてあげようか? 安くしとくぜ」
「遠慮するのじゃ」
ああ、なるほど、そういう男か。
こうやって外から来た人間に道案内して金を稼いでいるらしい。
王都にもこういう生業の人間は少なからずいる。
「それなら、ヴォルクヒルの名物を案内してやろうか?」
「それならあの跳ね橋じゃろ?」
「まあ、それもあるんだが、最近もうひとつ、名物が出来てね」
「ほう」
スセリが興味を示す。
プリシラとマリアも気になるようだ。
男は続きを話そうとしない。
スセリがいくらかの安い金を渡すと、男は「まいど」と言ってこう続けた。
「あんたらの通ってきたのは駅に近い南門。ここから反対側に北門がある。そこに行ってみな」
「なにがあるのじゃ?」
「それは行ってみてからのお楽しみだ。払った金の分は楽しめると思うぜ」
もらうものをもらった男は去っていった。
「北門か。行ってみるか?」
「せっかくですし行ってみませんこと?」
「賛成ですっ」
「はした金とはいえ、払うものは払ったのじゃからな」
そうして俺たちは冒険者ギルドへ行く前に北門へと行ってみた。
……すると、そこには驚くべきものがいた。
「たしかに先ほどの情報はお値打ち価格でしたわね……」
「のじゃ」
「しかし、どうしてこんなところに……」
北門にも同様、堀を渡すように跳ね橋がかかっていた。
……だが、跳ね橋のど真ん中にあるものが居座っていた。
「ここを通りたくば料金を払うのだ」
……竜だ。
竜が跳ね橋に居座っていて通せんぼしていたのだ。
「通行料はこちらにどうぞー」
そして竜のそばには一人の少女がいた。
箱を手に持っている。
「通行料を払わなければ消し炭になりますよー」
そう明るい声で脅している。
通行人たちはしぶしぶ少女が持つ箱の中に通行料を入れていった。
跳ね橋の真ん中に居座る竜におびえながら、その脇を通っていく。
竜は吠えるわけでも炎を吐くわけでもなく、通行人たちを目で追うだけだった。
通行料さえ支払えば危害は加えないらしい。
少女がニコニコしながら箱の中を竜に見せる。
「エルドリオン、今日はこんなに儲かったよ」
「うむ。よいことだ」
少女は竜をエルドリオンと呼んだ。
「あの、門番さん。北門では通行料が必要なんですか?」
プリシラが門番に質問する。
門番たちは呆れた面持ちで首を横に振った。
「あの竜と子供、ひと月前くらいからいきなりここにやってきたんだ」




