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列車の旅は続く。
カードゲームにも飽きた俺たちは各々の好きなことをしていた。
マリアは読書。
俺は端末でゲーム。延々と経験値稼ぎだ。
プリシラは車窓からの風景をずっと眺めている。
スセリは……。
「すー、すー……」
俺の肩に寄りかかって寝息を立てていた。
完全に無防備。
こうして寝顔を覗き込むと、本当にきれいな顔立ちだ。
どこからどう見ても貴族のお嬢さまだ。実際そうなのだが。
他の乗客からは、俺たちは兄妹に見えるだろう。
ご先祖さまとその子孫だと思うものはまさかいまい。
俺がせっせと経験値稼ぎをしているのに、こいつときたらのんきに寝ているなんて。
そこで俺は、少しいたずらがしたくなった。
スセリのほっぺたを指でつつく。
ふにふに。
やわらかい。
「アッシュ、なにしてますの……」
マリアにジト目で見られてしまった。
これ以上いたずらしたら目を覚ましてしまうだろうかやめておいた。
翌朝、列車はヴォルクヒル領へと到着した。
「大きな橋ですーっ」
プリシラが興奮している。
「立派ですわねっ」
「どうやって作ったんだろうな」
俺もマリアも彼女ほどではないがはしゃいでいた。
駅を少し歩いた先にヴォルクヒル領の街はあった。
俺たちは今、街の入り口の前にいる。
「これがかの有名なヴォルクヒルの橋じゃな」
街の周囲は高い防壁で囲まれている。
そのうえ防壁の手前は深くて広い堀になっている。
過去の要衝だけあり、強固な防御だ。
そして堀を渡すように門の前には跳ね橋がかかっていた。
大きくて立派な橋だ。
これがヴォルクヒルの名所の跳ね橋だった。
跳ね橋を渡る大勢の人々。
門の内側へ入る者もいれば出てくる者もいる。
「ワシらも渡るのじゃ」
「ドキドキしますねっ」
四人そろって橋を渡る。
そして街の門までたどり着くと、門番に止められた。
「ここへ来た目的は?」
「ヴォルクヒル領の領主からの依頼で、遺跡の地図を描きにきました。俺たちは冒険者です」
「ふむ」
門番二人が顔を見合わせる。
別に悪さはしていないのだが緊張する。
「通行証をお見せください」
「どうぞ」
俺は四人分の通行証を渡す。
門番はしばらく仲間とそれらをじっくりと見て、それから笑顔になってこう言った。
「ヴォルクヒルへようこそ。ゆっくりなさってください」
ほっと一安心。
俺たちは堂々と門をくぐったのだった。
こうしてヴォルクヒルの街へとやってきた。
強固な防壁の内側は、王都にも負けないくらい立派な街だった。
さまざまな大きさの建物が並ぶ。
道は大勢の人々が行き来していて、馬車もたくさん通っていた。




