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「返せもしない借金をさせるなんて卑劣ですわよ」
「返せないのはあの小娘が悪いのだ」
ガルアーノが大きく息を吸い込む。
「やれやれ。往生際が悪いのじゃ」
スセリが片手を軽くかざして魔法の障壁を展開する。
直後、ガルアーノは口から無数のトゲを噴き出した
カカカカッと障壁がトゲをはじく。
「アッシュ・ランフォード。悪魔ガルアーノを討伐せよ」
国王陛下が命じた。
俺は金属召喚で剣を呼び出す。
そして目の前にいる肥満の悪魔に躍りかかった。
ガルアーノが再びトゲを吐き出してくる。
俺は片手で魔法を唱え、障壁で防御する。
迎撃をいなすと、今度は跳躍魔法を唱えてガルアーノの頭上まで飛び、落下と同時に剣を振り下ろした。
金属の質量と落下の速度を乗算させた一撃。
俺の剣がガルアーノの首を叩き斬った手ごたえを確かに感じた。
着地すると、続いてガルアーノの頭部が床に落ちた。
「おのれ……。おのれ人間ごときが……」
驚くべきことに、頭部だけになってもガルアーノの意識はあり、あまつさえ怨嗟の言葉をつぶやいていた。
しかし、その時間も短く、やがてガルアーノは絶命し、頭部も身体も黒い霧となって霧散した。
静寂が訪れる。
「ガルアーノは魔物だったのか……」
「たしかに悪魔のようなヤツだったけど」
「まさか本当に悪魔だったとはね」
一部始終を見届けた出席者たちが口々にそう言い出した。
俺たちの目論見は見事成功し、ガルアーノを倒したのだった。
翌日の新聞記事にもこの件は載っていて、はからずも俺は『稀代の魔術師の後継者』としてもてはやされることになったのだった。
「アッシュさんのおかげですっ」
エリンシアにお礼をされた。
「あとはお店を繁盛させるだけだな」
「そ、そうですね。せっかく妨害されずにお店を開けるようになったのに、ここで失敗したら台無しですからね」
「それも心配あるまい。なんたって『ブランシェ』には焼きそばパンとカレーパンがあるのじゃからな。のじゃじゃじゃじゃっ」
ガルアーノの妨害がなくなったおかげでチラシも印刷できて宣伝はばっちり。
パンも目玉商品が二つもあるし、かわいい看板娘もいる。
これで失敗するなどありえるだろうか。
時計に目をやる。
開店までもう少しだ。
「みなさま、外を見てくださいっ」
プリシラが窓を指さす。
促されるまま外を見てみると、なんと店の前にはすでに大勢の客が開店を待っていた。
「こ、こんなに大勢のお客さん、はじめて見ました……」
エリンシアはよろこんでいるというよりも、うろたえている。




