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92-7

 パン屋『ブランシェ』のパステルカラーの外装の上から黒や赤といった塗料がめちゃくちゃに塗りたくられていたのだ。

 ひどい落書き。


「ハハハハハッ。前衛的な意匠だな」


 振り返る。

 そこには中年の男が立っていた。

 その醜い外見には似合わない、上等な服を着ている。


「ガルアーノ……」


 この男こそガルアーノだった。

 ガルアーノの左右にはいかつい体格の男たちが護衛として立っている。


「お店のほうは順調かね、エリンシア」


 こいつ、知ってて言ってるな。

 エリンシアは目に涙を浮かべている。


「前にも言ったが、この土地を譲ってくれさえされば借金は帳消しにしよう」


 タバコをくわえると、護衛の一人がタバコの先にマッチで火をつけた。

 灰色の煙がゆらゆらと立ち昇る。


「それだけではない。お前が店を手放してからもしばらく安定して暮らせるように支度金もくれてやろうではないか。これ以上ない取引だろう?」

「……」


 エリンシアは沈黙している。

 心が折れかけて葛藤している。


「こんな店に思い入れなどあるまい。さっさと手放せばよかろう」

「イヤです! あなたには絶対にこのお店は渡しません!」

「……まあ、いい。気が変わったらいつでも言いなさい。どうせ時間の問題だ」


 ガルアーノは高笑いを上げながら去っていった。

 エリンシアは歯を食いしばって震えている。

 俺は彼女の肩に手を置く。


「エリンシア、今はがまんしてくれ。ガルアーノのやり方がまっとうでないくらい誰にでもわかる。じきに冒険者ギルドが証拠を見つけてくれるさ」

「はい……」

「……」


 スセリは先ほどから黙ったまま考え込んでいる。


「アッシュ。おぬしは感じなかったか?」

「なにをだ?」

「やれやれ。『オーレオール』を手にしていながら感じなかったのか」


 スセリは肩をすくめる。


「ガルアーノから漏れ出てくる邪悪な魔力を」

「えっ!?」


 全員が驚く。


「あの魔力は魔物から発せられるものと似ておる」

「つ、つまり、どういうことですの?」

「ガルアーノは魔物が人間に化けている可能性が高いのじゃ」


 魔物が人間に化けて悪事を働いている。


「それならやっつけないといけませんっ」

「あやつが魔物である確証はない。邪悪な魔力の正体を暴くのが先じゃ」

「でも、どうやって」

「ワシの魔法ならば、かりそめの姿を剥がせるのじゃ」

「ガルアーノが魔物……」


 エリンシアは悲しげな表情をしている。


「私、自己嫌悪に陥りました」


 それから自嘲する。


「ガルアーノが魔物だったら、彼が手っ取り早い悪者になってくれて助かった、って。あいつをこらしめる言い訳が見つかってよかった、って思っちゃいました」

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