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92-3

 外観とは裏腹に、内装はしっかりしている。

 古びているのは否めないが、掃除は行き届いていて清潔感があり、持ち主に大事にされているのがよくわかる。


「よいお店ですわね」

「てへへ」

「えっと、お店の名前は――」

「『ブランシェ』です」

「ステキな名前のお店ですっ」

「パンはどんなパンがあるのじゃ?」

「では、奥の厨房へどうぞ」


 厨房へ案内される。

 エリンシアは何種類かのパンをトレーに乗せて持ってきた。


 食パン。

 クリームパン。

 それにサンドイッチ。


「おいしそうですねっ」

「意外性は無いが、まともじゃの」

「みなさんに試食してもらうために今朝作ったので、召し上がってみてください」


 エリンシアのパンを試食する。

 俺はまず、食パンから。


「素朴な味だな。いい意味だぞ。毎日食べるならこういうパンがいいな」

「ありがとうございますっ」


 スセリはクリームパンを食べている。


「ほう、中身のカスタード、濃厚な味わいでワシ好みなのじゃ。しかもこぼれるくらいたっぷりを入っておってとてもぜいたくなのじゃ」

「カスタードは当店の自慢ですっ」


 プリシラとマリアはサンドイッチ。


「新鮮なレタスのシャキシャキ感とトマトのすっぱさがステキですっ」

「焼いたベーコンのカリカリした食感がそこに加わって絶妙なハーモニーを奏でていますわ」

「ぜひぜひ昼食に食べてくださいっ」


 試食を終える。


「どうでしょうか。当店のパンは……」


 おずおずと尋ねてくるエリンシア。

 俺の考えはすでにまとまっている。

 それをどういう言葉で言い表そうか少し考える。


 エリンシアは緊張した面持ちで俺の答えを待っている。

 しばらく考えたあと、俺は言った。


「エリンシアのパンはおいしい」

「ほっ」


 安堵するエリンシア。


「ただ」

「えっ!?」


 そしてぎょっとする。


「ただ、こういうパンならどこにでも売っている。すまないが」

「どこにでも……、売っている……」


 エリンシアのパンはおいしい。

 これは間違いない。

 ただ、おいしいパンというのは王都のどこにでも売っているのだ。


 わざわざこの古ぼけた店に入ってまで買おうという客はいないだろう。

 もっとおしゃれで宣伝もしょっちゅうしているような人気の店に足を運ぶのが普通だ。

 この店をあえて選ぶ理由がないのだ。


 この国で最も人口の多い都市、王都。

 大勢の人々が暮らすこの都会で『普通のパン屋』が生き延びるのは至難の業だ。


 がっくりとうなだれるエリンシア。

 傷つけないよう言葉を選んだつもりだが、やはり落ち込ませてしまったらしい。

 スセリたちも反論しなかったことから俺と同じ意見のようだ。


「やはり、お店はあきらめるしかないのでしょうか……」

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