表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

640/842

92-2

 困っている人を見過ごせるほど俺は薄情ではない。

 とはいうものの、気になる点がないわけではない。


「エリンシア。報酬は払えるのか?」

「うぐっ」


 やはり尋ねられたくない質問だったのだろう。

 エリンシアは苦しげな表情になる。


「ほ、報酬って相場はいくらくらいなんでしょう……」

「依頼の内容によって変わるんだが」


 俺はとりあえず妥当であると思われる額を提示する。

 するとエリンシアは「えっ!」と大声を上げて俺たちを驚かせた。


「払えるか?」

「ううう……。無理です……」


 すっかり落ち込んでいる。

 悪いことはしてないはずなのに罪悪感をおぼえてしまう。


「あ、あの、お店が繁盛して儲かったあとでお支払いするというのは……」

「気の長い話じゃのう」

「本当に繁盛するかも保証はできませんことよ」

「ううううう……」


 気落ちしたエリンシアは今にも霧散しそうだ。

 お金が払えないなら依頼は受けられない、とは言えない雰囲気だ。

 かわいそうな彼女をできることなら助けてあげたい。


「報酬が払えないのならギルドが肩代わりしよう」


 そこに現れたのがキルステンさんだった。

 ギルドが肩代わり……?


 依頼主の代わりにギルドが報酬を払ってくれるのだろうか?

 でも、そうなるとギルドがまるまる損をするかたちになる。


「知らないのか、アッシュ・ランフォード」


 キルステンさんによると、報酬を支払えるだけのお金を持たない依頼人のために、ギルドが一時的に報酬を肩代わりして冒険者に支払う制度があるという。

 依頼主は無利子で毎月分割して少しずつギルドに立替金を支払うのだ。

 力を持たない人々に寄り添う冒険者ギルドならではの制度だ。


「お前たちの過去の依頼主たちも少なからずこの制度を利用している」

「そうだったんですね」

「その制度、使わせてください!」


 そういうわけで、報酬の問題は解決した。

 エリンシアはにこにこ笑顔だ。


「これでお店を失わずに済みます」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ。エリンシアの店がどんな状態なのか詳しく見ないかぎり、立て直せるかはわからないぞ」

「わかりました。まずは私のお店にご案内します」


 俺たちはエリンシアが営むパン屋に案内された。

 人通りが多い大通りに面した店。


 立地はかなりいい。

 ただ、店はだいぶ年月を経たのか、廃屋と見まがうほどぼろぼろだ。

 昔はおしゃれな店構えだったのがかろうじてわかる。


 立て付けの悪いドアを開けて中に入る。

 店はがらんとしていて、ものさみしい。


「パンがありませんね」

「今日はアッシュさんたちに会いにいくために休業日にしたんです。いつもはいろんなパンがいっぱい並んでいるんですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ