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困っている人を見過ごせるほど俺は薄情ではない。
とはいうものの、気になる点がないわけではない。
「エリンシア。報酬は払えるのか?」
「うぐっ」
やはり尋ねられたくない質問だったのだろう。
エリンシアは苦しげな表情になる。
「ほ、報酬って相場はいくらくらいなんでしょう……」
「依頼の内容によって変わるんだが」
俺はとりあえず妥当であると思われる額を提示する。
するとエリンシアは「えっ!」と大声を上げて俺たちを驚かせた。
「払えるか?」
「ううう……。無理です……」
すっかり落ち込んでいる。
悪いことはしてないはずなのに罪悪感をおぼえてしまう。
「あ、あの、お店が繁盛して儲かったあとでお支払いするというのは……」
「気の長い話じゃのう」
「本当に繁盛するかも保証はできませんことよ」
「ううううう……」
気落ちしたエリンシアは今にも霧散しそうだ。
お金が払えないなら依頼は受けられない、とは言えない雰囲気だ。
かわいそうな彼女をできることなら助けてあげたい。
「報酬が払えないのならギルドが肩代わりしよう」
そこに現れたのがキルステンさんだった。
ギルドが肩代わり……?
依頼主の代わりにギルドが報酬を払ってくれるのだろうか?
でも、そうなるとギルドがまるまる損をするかたちになる。
「知らないのか、アッシュ・ランフォード」
キルステンさんによると、報酬を支払えるだけのお金を持たない依頼人のために、ギルドが一時的に報酬を肩代わりして冒険者に支払う制度があるという。
依頼主は無利子で毎月分割して少しずつギルドに立替金を支払うのだ。
力を持たない人々に寄り添う冒険者ギルドならではの制度だ。
「お前たちの過去の依頼主たちも少なからずこの制度を利用している」
「そうだったんですね」
「その制度、使わせてください!」
そういうわけで、報酬の問題は解決した。
エリンシアはにこにこ笑顔だ。
「これでお店を失わずに済みます」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ。エリンシアの店がどんな状態なのか詳しく見ないかぎり、立て直せるかはわからないぞ」
「わかりました。まずは私のお店にご案内します」
俺たちはエリンシアが営むパン屋に案内された。
人通りが多い大通りに面した店。
立地はかなりいい。
ただ、店はだいぶ年月を経たのか、廃屋と見まがうほどぼろぼろだ。
昔はおしゃれな店構えだったのがかろうじてわかる。
立て付けの悪いドアを開けて中に入る。
店はがらんとしていて、ものさみしい。
「パンがありませんね」
「今日はアッシュさんたちに会いにいくために休業日にしたんです。いつもはいろんなパンがいっぱい並んでいるんですよ」




