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短い月日で俺たちは次々と困難な依頼を解決していき、今ではすっかり王都でも有名な冒険者になっていた。
こうなるともはや依頼は掲示板で探すまでもなく、冒険者ギルドに俺たちを指名して依頼が舞い込んでくる。
だからすっかり掲示板を見る習慣もなくなりつつあったが、今日、ギルド長のエトガー・キルステンさんに掲示板を見るよう促された。
「掲示板になにかあるんですか?」
「見ればわかる」
冒険者ギルドのロビーに置かれた掲示板に目をやる。
そこにはさまざまな依頼が書かれたメモが画鋲で貼られている。
俺たちは最初はここから自分で解決できそうな依頼を選んでたっけな。
なんて思い出にふけっていると、プリシラが「あっ」と声を上げた。
「アッシュさま! あれをごらんになってください!」
プリシラがさした指の先に目をやる。
……そこには赤やら緑の色を使ったやたらと派手で目立つ依頼のメモが貼ってあった。
しかも『アッシュ・ランフォードさまご一行専用のご依頼』と書かれているではないか。
画鋲を外してそのメモを手に取る。
そのとき、固い靴底が床を叩くあわただしい足音が近づいてきた。
「依頼、受けてくださるんですね!?」
俺たちの前に現れたのは俺やマリアと同じくらいの年頃の少女だった。
走ってやってきたせいで、ぜえぜえと肩で息をしている。
俺たちがこれを手に取るのを待ち伏せていたらしい。
マリアもプリシラもスセリも目をまんまるにして驚いている。
「依頼、受けてくださるんですね!?」
再び尋ねてくる。
「い、いや、まだ依頼内容を読んでいないんだが……」
「今すぐ読んでください!」
「わ、わかった」
――つぶれそうな私のお店を立て直してください。
と書かれていた。
「つぶれそう、って、物理的な意味じゃないよな?」
「私のお店、ぜんぜん繁盛しなくて、どんどん借金が増えていって、来月には閉店しないといけないんです……」
とりあえず詳しい話を聞くため、俺たちはロビーの丸テーブルの席に座った。
「あ、申し遅れました。私、エリンシアっていいます。王都でパン屋を営んでいます」
「エリンシア。どうしてわたくしたちを指名なさったの?」
「あと、本来なら指名は掲示板じゃなくて直接ギルドの職員に話をしないといけないんだ」
「ギルド長が気付かなければ見逃すところじゃったぞ」
「ううう……。そうしたかったのですが、どうやら指名には指名料というのがかかるそうで……」
なるほど。お金がなかったわけだ。
掲示板に名指しで依頼を書くのはルール違反――とは聞いたことがないから、依頼を請け負っても問題はないだろう。キルステンさんもなにも言わなかったし。
「アッシュさんたち、今年の夏に海の家を経営していましたよね。とても繁盛していたそうで……。もしかしたら、私のお店も立て直してくれるかも、って期待して依頼したんです」
「どうしますの? アッシュ」
「アッシュさま、エリンシアさまを助けて差し上げましょうっ」
「おぬしにまかせるのじゃ」




