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「ゴルドカリバーをくれれば一日くらい地上に出てもいいわ」
「大地の神もそう言ってる。挑戦しよう」
「ううう……。ワシの経験値が……」
「失敗しなければその経験値とやらもなくさないのでしょう? 覚悟を決めてくださいまし、スセリさま」
スセリは渋々端末を操作しはじめた。
ゲームを起動する。
難関ダンジョン、デスストーム城の攻略を開始した。
画面に映っているのは、いかにも邪悪な魔王が住んでいそうな恐ろしげな城。
そこに四人の勇者たち――スセリが操作するキャラクターたちが乗り込む。
「がんばってくださいっ、スセリさま」
「手堅くいきますのよ」
「気が散るから黙っておれ」
俺たちはおでこがぶつかるくらい顔を近づけあって、スセリの操作する端末をのぞき込んでいた。
城に出現する魔物をスセリは順調に倒している。
だが、戦うたびに攻撃を受けているので体力も少しずつ削れていく。
「そろそろポーションで回復したほうがいいんじゃないか?」
「アッシュさま、詳しいですね」
「スセリに経験値稼ぎをまかされることが結構あるからな」
だから知っているのだ。
スセリのレベルではデスストーム城の攻略が厳しいことくらい。
それでも彼女にはがんばってもらわないと。
ボスが待つ最奥に近づくにつれ、出現する魔物も強くなっていく。
最初は楽勝だったスセリも、だんだんと苦戦するようになってくる。
必然的に回復する頻度も増え、ポーションの所持数も不安になるほど減っていた。
そしてついにキャラクター一人が戦闘不能になってしまった。
「魔法使いさんが倒れてしまいました!」
「死んでしまいましたの?」
「残念じゃが、こいつはここで脱落なのじゃ」
仲間が一人減ると、ますます戦いは厳しくなる。
魔物と出くわすたび、少なからぬ消耗を強いられる。
残されたポーションの数も心もとない。
もはや限界だ。
だが、スセリは勇者たちを先へと進めていた。
「スセリ、いいのか? このままだとやられるんじゃ……」
「やらねばならぬのだろう? 覚悟はできたのじゃ」
「ありがとう」
「頼られるのは存外いい気分じゃからな」
そしていよいよ勇者たちはボス部屋までたどり着いた。
邪悪な姿をした魔物が立ちはだかる。
こいつを倒したらゴルドカリバーが手に入る。
だが、勝てるのだろうか。
相手ははるかに格上の相手。
そのうえこちらは魔物との立て続けの戦闘で手傷を負っている。
「スセリさま! やっつけましょう!」
「蹴散らしてくださいまし!」
「スセリ、信じているぞ」
「よし、ゆくのじゃ!」
勇者たちがボスにおどりかかった。
ありったけの力を使ってボスに挑み、死闘の末にボスは倒れて消滅した。
スセリが勝ったのだ。




