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神さまが地下にこもってゲームにふけるとは世も末だ。
しかし大地の神は悪びれるそぶりもなく、端末を見ながら言った。
「私は見てのとおり忙しいの。悪いけどあきらめて」
「ゲームがそんなに大事なのですか?」
「ええ、大事よ。生まれては消えていく万物で『データ』だけは永劫不滅のもの。永遠に等しい命を持つ私たち神が求めていたものなの」
俺は思わずスセリに目をやってしまった。
彼女も不滅の命を持った存在。
かつてこの少女も移ろいゆくことを恐れ、すべての人類を不死にしようと企んだ。
彼女がゲームに凝っている理由に思いがけぬときに気づいてしまい、俺は戸惑った。
「ワシに助けを求めてもむだじゃぞ」
スセリは気づいていないようだが。
プリシラが祈るように手を握り合わせて大地の神にお願いする。
「神さま。数年に一度だけでいいんです。地上に出てきてください」
「わたくしもお願いしますわ。一日くらいならゲームにも支障ないでしょう?」
「イヤよ」
「人々の願いに応えるのも神の務めではありませんこと?」
「もう帰って」
困ったな。
まさか大地の神がこんな自堕落だったなんて。
どうかにしてこの神を地上に引きずり出さないと、海の家の商売は上がったりだ。
マリアが提案する。
「では、貢物をします。神に願いごとをするといえば貢物ですわ。なにをご所望ですの?」
「うーん」
大地の神は頭上を見つめながら考え込む。
それからこう答えた。
「ゴルドカリバー」
「ゴルド……えっ?」
聞きなれない単語に首をかしげるマリア。
「最強の力を持った伝説の剣」
「それはどこにありますの?」
「デスストーム城のボスが低確率でドロップする」
ボス……ドロップ……。
そ、それってもしかして、ゲームのアイテムか!?
意味がわからないようすのプリシラとマリアは互いに目を合わせている。
俺はスセリに尋ねる。
「スセリは持っていないのか? ゴルドカリバー」
「持っておらんのじゃ」
「本当か?」
「ワシがアッシュにウソをつくと思っておるのか」
ウソなんて今まで数えきれないくらいついてきただろう。
と言いたいのを抑える。
「よし、スセリ。今からゴルドカリバーを取りにいこう」
「う、うーむ……」
俺たちの中でゲームのデータを持っているのはスセリだけ。
大地の神にゴルドカリバーを貢ぐには彼女に取ってきてもらうしかないのだ。
スセリはろこつに困った表情をしている。
「今のワシのレベルじゃとデスストーム城の攻略は難しいのじゃ」
「難しくても挑戦するしかないんだ」
「死亡したら半月稼いだ経験値がロストするのじゃ」




