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9-6

 『いる』ではなく『いた』か。

 その言いかたに不穏な気配を感じた。


「四人の兄は父の(めかけ)の息子で、このわたくし、クローディアは正妻の娘です。ガルディア家のしきたりでは正妻の子であるわたくしがもっとも家督の継承者に近い人間なのです」


 なんとなくその先のことが予想できた。


「家督の継承者に関しては以前からいざこざがありましたが、それはまだまだ小さなものでした。しかし、父が病にふせってから、くすぶっていた家督争いが本格的な火となって燃え上がったのです」


 ディアは一呼吸置いてから、こう続けた。


「ガルディア家の四男、クロノス・ガルディアが、誕生日パーティーと称して招いた三人の兄を暗殺したのです。パーティーを開いた別荘ごと焼き払って」

「ひえっ!」


 プリシラが目をまんまるにして獣耳をぴんと立てた。


「クロノスは昔から残忍な性格の野心家でした。わたくしは誕生日パーティーがクロノスの仕組んだ罠だと察し、仮病を使ってパーティーを欠席して事なきを得たのです」

「で、そのまま家から逃げ出して今に至る――というわけじゃな」

「はい……。あのまま家にいれば、クロノスに殺されるのは確実でしたから」


 このままディアの父親が亡くなれば、ガルディア家の正統なる継承者はディアになる。

 クロノス・ガルディアはそれを阻止するため、間違いなくディアの命を狙いにくるだろう。

 それに巻き込みたくなかったから、ディアは頑なに自分の事情を俺たちに話そうとしなかったのだ。


「ど、どどどどどうしましょう!? アッシュさま! ディアさまの命が狙われてるなんて!」


 プリシラはかなり動揺している。

 俺はアゴに手を当てながら考える。

 それからディアに質問する。


「ディアはガルディア家を継ぐ意思はあるのか?」


 ディアは首を横に振った。


「わたくしは家督争いには興味ありません。ですが、クロノスは信じないでしょう。不在であるわたくしに代わって家督を継いだとしても、いつかわたくしが正統なる後継者という名目の下、兵を挙げてガルディア家を奪いにくる。――そう危惧しているに違いありません」


 だとすると、ディアに逃げ場はないわけか。


「クロノスは暗殺者を雇ってわたくしの命を今も狙っています。ですから――」

「でしたら、これからもいっしょにいなくちゃいけませんねっ」

「えっ」


 プリシラの言葉にディアは目をしばたたかせた。


「わたしたちがディアさまをお守りしますっ。ですよねっ、アッシュさまっ」

「ああ」

「し、しかし……」

「命を狙われている女の子を放っておけるような人間に見えるか? 俺たち」

「それは……」

「俺たちがディアを守る。俺はそれができる『力』を持っているんだ」


 俺は魔書『オーレオール』を手に取った。

 あらゆる魔法を唱えられる万能の魔書。

 その力を行使するなら、誰かのためでありたい。

 ディアを助けてあげたい。


「まったく、お人よしじゃのう」

「ディア。俺たちを頼ってくれ」

「アッシュさん……」


 ディアは迷っている。

 俺とプリシラは彼女の信頼を得ようと彼女の目をじっと見つめた。

 ディアは俺とプリシラを交互に見つめ返す。

 俺たちの瞳に宿っている想いが伝わったらしい。ディアの頑なだった心が揺らいでいるのが表情でわかった。


 俺たちの出会いは偶然。

 ディアを助ける義理など一つとしてない。

 ディアからしても俺たちは他人も同然。そんな他人に自分の命を託すのをためらうのもわかる。

 それでも俺は彼女の力になってあげたかった。

 同じ、帰る家を失った者同士として。


 顔を伏せるディア。

 そして、しばらくの迷いの後、彼女は顔を上げた。


「やはり、みなさんには話すべきではありませんでしたね」


 彼女はうれしげな笑みを浮かべていた。

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