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余った一日をどちらが支配するかの争い。
正直、肩透かしだ。
そんなくだらないことで争いを起こしていただなんて。
一日くらい相手に譲ってやればいいのに。
どうやらほかのみんなも同じ意見だったようで、一様に呆れた面持ちをしていた。
グリフォンピーク島の人々は毎日、捧げものを持っていき、争いをやめるようお願いしているのだという。
しかし、二柱の神は争いをやめない。
神は不死なる存在。
戦ったところで死ぬことはない。
では、どうやって決着をつけるのかというと、相手に「まいった」と言わせたら勝ちなのだ。
「神の格は信仰に依るのじゃ。そして信仰は権威がないといけぬ。どれだけくだらんことでも、相手より劣っているという事実は沽券に関わるのじゃ」
そうスセリが説明してくれた。
俺たちは風の神と雨の神がいる山を登った。
大量の水分を含んだ風が吹きすさぶのを耐えながら歩く。
山の頂上にたどり着く。
山頂の平たい場所の中央で、二人の半裸の男性が肉弾戦を繰り広げていた。
緑の髪の男と青の髪の男。
いずれも痩せていながらほどよく筋肉がついている、極めて健康的な肉体だ。
「彼らが神さまかしら」
「膨大な魔力を感じるのじゃ。間違いなく雨の神と風の神なのじゃ」
二柱の神は激怒した表情でけんかをしている。
近づこうものなら巻き添えは必至。
……プリシラとスセリとマリアは俺をじっと見ている。
やはり俺が仲裁しないといけないようだ。
「あの、すみません」
「ああっ!?」
「なんだ、てめえは!」
けんかを中断した二人が俺をにらみつけてきた。
「雨の神と風の神でしょうか」
「……おい、てめえ」
緑の髪の男が俺の胸ぐらを掴んでくる。
治安の悪い町の不良に絡まれた気分だ。
「なんで今、俺の名前を後にした。『風の神と雨の神』って言い直せ」
ど、どうでもよすぎる!
「いいや、言い直す必要はないぜ。雨の神である俺がすべてにおいて優先されるべきだからな」
「てめえ! ぶっとばす!」
二人が再びけんかを始めてしまった。
殴り、殴られを交互に繰り返す。
理性なんてとっくにかなぐり捨てている。
まともな説得は無理だと確信した。
「けんかはやめてくださーいっ!」
プリシラが叫ぶ。
すると、二柱の神はぴたりと動きを止め、ぎろりとプリシラをにらみつけた。
即座に俺の背後に隠れるプリシラ。
「てめえら、まだいたのか」
「ぶっとばされてえのか」
俺たちはここに来た理由を二人に話す。
二人がけんかをしているせいで連日嵐で困っていること。
けんかをやめてほしいということ。
「おぬしらも困るじゃろ。島の人々がおぬしらを嫌って信仰を捨てられては」
「まあ、そうだが」
「畏敬の念は畏怖と敬意の均衡が大事じゃ。今のままでは敬意を忘れられてしまうのじゃ」




