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89-7

 マリアが覚悟を決めてくれただけあって、効果はてき面だった。

 彼女の水着目当てで男性客が大勢訪れた。

 顔も体つきも魅力的な彼女が肌をさらしたのだ。当然の結果だろう。


 それよりも驚いたのは、スセリに言い寄る男性客も少なからずいたことだ。

 彼女も顔立ちは整っているが、あくまで外見は子供。

 おまけに地味な水着なのにもかかわらず。


「こういうのにこだわる男もおるのじゃよ」


 スセリはそう言った。

 ラピス王女たちの店に流れていた客たちがこちらにもやってきて、席が常に満員になるほど盛況になった。

 この勢いなら経営は黒字だ。


 俺はいったん焼きそばを焼く手を止めてコテージに入った。

 コテージではプリシラがいっしょうけんめいカレーを煮込んでいた。


「プリシラ、そろそろ休憩したらどうだ?」

「だいじょうぶです。カレーを煮ているだけなので疲れませんから」

「昼食の時間が過ぎて客も減ってきた。少し休むくらいなら平気さ」

「でしたら、お言葉に甘えて」


 プリシラに代わって俺がカレーを作る。

 作るといっても、鍋を混ぜるくらいだが。

 プリシラはイスにちょこんと座って休んでいる。


「マリアさまもスセリさまも人気ですね」

「二人とも美人だからな」

「うらやましいです」


 自嘲するプリシラ。


「なに言ってるんだ。プリシラもかわいいぞ」

「そのお言葉はとてもうれしいのですが、『美人』と呼ばれるようになりたいなー、とも思ってまして……」


 プリシラはまだ子供。

 美人と呼ばれるにはまだ早い年齢だ。

 年月が経って相応の年齢なれば美人と呼ばれるだろう。


「……あれっ?」


 プリシラが窓の外に目をやる。

 そして窓際に寄るとぎょっと目をむいた。


「アッシュさま、大変です!」


 彼女が叫んだ理由がわかった。

 窓から空を見あがると、さっきまで青かった空がどんよりとしていた。

 不吉な灰色の雲が漂っている。


 雨雲だ。

 雨が降る。

 そう思ったのと同時だった、無数の雨粒が浜辺に降り注いだのは。


 夏の熱気を洗い流すかのような降雨。

 海水浴客たちがいっせいに逃げ出す。

 またたく間に浜辺は誰一人としていなくなった。


「あー、やれやれ。ついてないのじゃ」


 スセリとマリアがコテージに戻ってきた。


「これではもう、今日の売り上げは見込めませんわね」

「残念ですね」


 翌日も雨は止まなかった。

 それどころか雨の勢いは増すばかりで、雨粒は窓ガラスを執拗に叩くのを止めなかった。

 海の家が再開する見込みはなかった。


 これではもう、売り上げもなにもない。


「神さまもいじわるですね」

「神は人間の事情になどまるで興味ないからの」

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