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623/842

89-6

 隣の海の家は宿屋『ブーゲンビリア』が運営していた。

 宿屋の看板娘のフレデリカからその話は事前に聞かされていたが、そこにラピス王女も加わっているのは知らなかった。


 接客しているのが自国の王女さまだと知るや、海水浴客たちはこぞって『ブーゲンビリア』の店へとやってきた。

 大繁盛である。


 にっこり笑顔で客をもてなすラピス王女。

 フレデリカは接客にあるまじき、だるそうな顔をしている。


「アッシュさんのお店に半分分けてあげたいですよー。はー、めんどい」

「フレデリカ。どうしてラピス王女がフレデリカの店に……?」

「あー、それはですねー」


 以前のお菓子作り大会で優勝したフレデリカは王城に招かれ、そこで自分で焼いたお菓子をふるまった。

 その際にラピス王女に気に入られたのだった。

 王女と平民の身分差があるのでめったに会えないが、文通はしているのだという。


 そういう縁で王女は今、ここにいる。


「フレデリカはわたくしのお友達なんです」

「お父上は、陛下は許してくださったんですか?」

「もちろんです。これも勉強だとおっしゃっていました」


 国王陛下公認なら文句は言えない。


 ラピス王女は見目麗しい。

 そして王女という付加価値もあり、客はすべて『ブーゲンビリア』に吸い寄せられていく。

 王女さまにこんな至近距離で会えるなら、みんな行くに決まっている。


「由々しき事態じゃ」


 スセリが端末を操作している。


「計算してみたが、ここままじゃとワシらの店は赤字確定なのじゃ」

「そんな……。せっかくがんばったのに……」

「かくなる上は――マリア」

「な、なんですの……?」

「脱げ」


 スセリがそう命じた。


「おぬしも外見なら負けておらん。水着に着替えて男どもを誘惑するのじゃ」

「ふ、ふざけないでくださいまし!」

「大真面目じゃ」


 浜辺では水着を着た男女は結構いる。

 うつむくマリアは乗り気ではないようす。


「わたくし、ああいう肌の露出が多い衣装は遠慮したいですわ。はしたなくありませんこと?」

「ワシも水着で接客する。それでどうじゃ」

「そ、それならしかたありませんわ……」


 そうしてマリアとスセリは水着に着替えた。


「ううう……、恥ずかしいですわ……」


 マリアは上下に分かれた赤い水着。

とても魅力的だ。

 豊満な胸がさらされていて、目のやり場に困るが……。


 対してスセリはケルタスのときと同じ、地味な紺色の水着。

 彼女によると、古代文明では学校の水泳の授業でこの水着を着ていたのだという。


「その水着、気に入ってたのか」

「ワシにはこの水着が一番似合うのじゃよ」

「わたくしもそっちの布の多い水着にしたいですわ」

「おぬしだと胸がつっかえて入らんわい」

「!?」


 マリアが赤面した。

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