89-6
隣の海の家は宿屋『ブーゲンビリア』が運営していた。
宿屋の看板娘のフレデリカからその話は事前に聞かされていたが、そこにラピス王女も加わっているのは知らなかった。
接客しているのが自国の王女さまだと知るや、海水浴客たちはこぞって『ブーゲンビリア』の店へとやってきた。
大繁盛である。
にっこり笑顔で客をもてなすラピス王女。
フレデリカは接客にあるまじき、だるそうな顔をしている。
「アッシュさんのお店に半分分けてあげたいですよー。はー、めんどい」
「フレデリカ。どうしてラピス王女がフレデリカの店に……?」
「あー、それはですねー」
以前のお菓子作り大会で優勝したフレデリカは王城に招かれ、そこで自分で焼いたお菓子をふるまった。
その際にラピス王女に気に入られたのだった。
王女と平民の身分差があるのでめったに会えないが、文通はしているのだという。
そういう縁で王女は今、ここにいる。
「フレデリカはわたくしのお友達なんです」
「お父上は、陛下は許してくださったんですか?」
「もちろんです。これも勉強だとおっしゃっていました」
国王陛下公認なら文句は言えない。
ラピス王女は見目麗しい。
そして王女という付加価値もあり、客はすべて『ブーゲンビリア』に吸い寄せられていく。
王女さまにこんな至近距離で会えるなら、みんな行くに決まっている。
「由々しき事態じゃ」
スセリが端末を操作している。
「計算してみたが、ここままじゃとワシらの店は赤字確定なのじゃ」
「そんな……。せっかくがんばったのに……」
「かくなる上は――マリア」
「な、なんですの……?」
「脱げ」
スセリがそう命じた。
「おぬしも外見なら負けておらん。水着に着替えて男どもを誘惑するのじゃ」
「ふ、ふざけないでくださいまし!」
「大真面目じゃ」
浜辺では水着を着た男女は結構いる。
うつむくマリアは乗り気ではないようす。
「わたくし、ああいう肌の露出が多い衣装は遠慮したいですわ。はしたなくありませんこと?」
「ワシも水着で接客する。それでどうじゃ」
「そ、それならしかたありませんわ……」
そうしてマリアとスセリは水着に着替えた。
「ううう……、恥ずかしいですわ……」
マリアは上下に分かれた赤い水着。
とても魅力的だ。
豊満な胸がさらされていて、目のやり場に困るが……。
対してスセリはケルタスのときと同じ、地味な紺色の水着。
彼女によると、古代文明では学校の水泳の授業でこの水着を着ていたのだという。
「その水着、気に入ってたのか」
「ワシにはこの水着が一番似合うのじゃよ」
「わたくしもそっちの布の多い水着にしたいですわ」
「おぬしだと胸がつっかえて入らんわい」
「!?」
マリアが赤面した。




