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まずは見た目から。
俺たちは店の改装をはじめた。
もっとも、あまり日にちは残っていないため、塗料を上から塗ったり小物を置いたりする程度だが。
それでも二日もかければかなり見た目がよくなった。
パステルカラーのピンクや水色のさわやかで明るい外観に海の家は生まれ変わった。
夏のまぶしい日差しと青空によく似合っている。
「これでお客さまがいーっぱい来ますねっ」
「繁盛間違いなしですわ」
ちょうどそこにキルステンさんがやってきた。
改装された海の家を見て感心する。
「だいぶ見違えたな」
「これで海の家も黒字になりますっ」
「よろこぶのはまだ早いのじゃ」
スセリが板切れを見ている。
海の家のメニューだ。
――お品書き。
――カレーライス、焼きそば、かき氷……。
「カレーライスは知ってますが、あとの二つはなんでしょう?」
焼きそばは麺を鉄板で焼き、ソースで味付けしたもの。
かき氷は細かく削った氷にシロップをかけたもの。
キルステンさんによると、いずれも海の家では定番のメニューらしい。
調理方法を聞いた限りではかんたんに作れそうだ。
「肝心の食事がうまくなければ繁盛はせんぞ」
「コックは誰を雇っていますの? キルステンさま」
「調理するのもギルドの人間だ」
「調理ならこのプリシラにおまかせください」
プリシラが自信たっぷり胸を張った。
コックは彼女で決まりだ。
予行練習を兼ねてメニューをひととおり作ることにした。
カレー担当はプリシラ。
調理がかんたんな焼きそばとかき氷の担当は俺とスセリだ。
マリアには接客を担当してもらう。
焼きそばは仕入れた麺を具材と共に鉄板で焼き、頃合いになったらソースを混ぜるだけだ。
かき氷も氷を専用の道具で削るだけ。
それぞれの料理はすぐに完成し、テーブルに並べられた。
「おいしい」
「いかにも大衆料理といった感じですわね。もちろんほめてますわよ」
「カレーが特に美味だ。去年とはまるで違う」
「てへへ」
海開きは明日。
準備はばっちりだ。
……が、海開きの当日、思いもよらぬ事態が起きた。
海の家に訪れる客はまばら。
いないことはないが、席はいくつも空いたままだった。
浜辺にはすさまじい数の海水浴客たちがいる。
イモを洗うような、と言えるくらいの大混雑。
当然、海の家も需要があるにもかかわらず、冒険者ギルド運営の海の家は閑散としていた。
「あんなライバルがいるなんて聞いてませんわよ!」
浜辺には冒険者ギルド以外の者も海の家を開いているのは知っていたが、その人間がとんでもない人だった。
「海の家『ブーゲンビリア』へようこそー」
隣の海の家で接客しているのはラピス王女だった。




