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春が過ぎ、雨季も過ぎて夏が訪れた。
うだるような暑さは連日。
王都の人々もみんな薄着になっていた。
「まもなく海開きだ」
ギルド長室に俺とプリシラ、スセリ、マリアはいた。
執務机の前にはギルド長のキルステンさんが座っている。
「海で泳ぐのが許可されるんですね」
「そういうことになる」
夏になると王都の浜辺は海水浴を楽しむ人々でとても賑やかになるという。
「海開きに伴って我ら冒険者ギルドが毎年、海の家を出店することになっているのは知っているか?」
「いえ、初めて知りました」
「海の家とはなんですか?」
「浜辺の飲食店だ。海水浴客に飲み物や食べ物を売るのだ」
「冒険者がですか?」
プリシラがそう疑問を口にした。
俺もふしぎに思った。
冒険者の仕事といえば魔物討伐や遺跡の探索、護衛が主だ。商売をするなんて思いもよらなかった。
「当初は冒険者と王都の人々が交流するためにはじめたのだ。冒険者という存在になじんでもらうためにな」
冒険者ギルドはもともと、まっとうな生き方ができないならず者たちをまとめ上げた組織だった。
そのため、人々にとって冒険者は野蛮な者たちだという偏見があったという。
今でこそ人々の信頼を得ているが、最初は苦労したのだろう。
「冒険者ギルドが人々から頼りにされている現在、もはや海の家の役目は果たしただろうが、まあ、恒例行事だからな」
「で、そんな話をワシらにしてどうするつもりじゃ?」
「今年はお前たちに海の家を任せようと思う」
「まあっ、楽しそうですわね」
マリアがそう言う。
「遊びではない。海の家は毎年赤字なのだが、お前たちには黒字になるよう努力してもう」
「ギルドは商売に手を出さねばならぬほどひっ迫しておるのか?」
「運営するからには黒字にしたほうがいいだろうというだけだ。遊びではないのだからな」
キルステンさんの視線が俺に向く。
「できるか? アッシュ・ランフォード」
「努力します」
「期待している」
それから俺たちは王都の浜辺に連れてこられた。
海開きはまだなので泳いでいる人はいないが、それでも砂浜で遊んでいる人は結構いる。
「これが我がギルドの店だ」
砂浜に建てられた簡素なコテージ。
これが海の家。
コテージの中はまるまるキッチンになっていて、客たちが飲食するのは広いテラス席になっている。
「ね、年季が入っていますわね……」
海の家はかなり古びていた。
テラス席の屋根はさびていて、柱も色あせている。
テーブルもイスもとっくに耐用年数を過ぎているように見受けられた。
これでは客は寄ってこないだろう。
「ふむ、客を寄せるにはまずこのおんぼろな外観から手をつけんとな」




