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89-3

 ベオウルフが後ろ手に隠していたものを俺に差し出してきた。

 かわいい柄の包装がされた箱。

 リボンまであしらわれている。


「プリシラといっしょにかわいい紙を買ってきて包んだんです」

「俺にくれるのか?」

「そのためにがんばったので」


 恥じらいの表情のベオウルフ。

 プリシラは微笑ましげ。

 俺にベオウルフの気持ちを拒絶する理由なんてない。


「ありがとう。もらうよ」

「や、やったっ」


 ベオウルフが無邪気な笑顔になった。

 やはり彼女にはそういう表情が似合う。


 ベオウルフから受け取った箱は片手で少し余るくらいの大きさだったが、意外にも重さはそれなりにあった。

 なにが入っているのだろう。


「ここで開けていいか?」

「はい。早く食べないと痛んじゃうので」


 どうやら食べ物らしい。

 リボンをほどき、破らないように包装をはがして箱を開ける。

 箱の中にはイチゴのタルトが一切れ入っていた。


「ボクに足りないものを足したタルトです。アッシュお兄さんにはまだ食べてもらってなかったので」


 イチゴのタルトを手に取る。

 タルトの上のイチゴが宝石のようにきらきらと輝いている。

 俺はそれを一口食べた。


「おいしい!」

「よかったです」


 とてもおいしかった。

 だが、彼女には失礼だが、以前のタルトとどこが違っているのかはわからなかった。

 前のタルトだって文句のつけようがないおいしさだったから。


「やったね、ベオ」

「うん」


 ベオウルフとプリシラは手を取り合ってよろこんでいた。


「あの、アッシュお兄さん」

「ん?」

「ボク、以前、アッシュお兄さんと結婚できるなら二番目のお嫁さんでも三番目のお嫁さんでもいいって言いましたが」


 一度そこで言葉を切ってから、彼女はまっすぐに俺を見つめて宣言した。


「やっぱり一番がいいです。アッシュお兄さんの」

「ええっ!?」


 俺は仰天した。

 い、いきなりどうしてそんなことに……。

 プリシラは意外に平然としている。むしろうれしそうにも見える。


「ベオもやっとアッシュさまの魅力に気付いたんだね」

「ごめん、プリシラ。プリシラの好きな人を横取りするみたいで」

「んーん。恋愛は自由だもん。正々堂々と勝負だよ、ベオ」

「手ごわい相手になりそうだけど、ボクは負けないから」


 その日を境にベオウルフの態度に変化が起きたのは俺の気のせいではないだろう。

 彼女が恋愛という感情を知ったのはよいことだろうけれど。


 変化をもたらしたのは、賢竜ポルックスなのは間違いない。

 そうなると、いよいよ本気で気になってしまう。ベオウルフのタルトに足りなかったものが。

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