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89-2

「無意味だったわけだな」

「そうでもないのだよ」


 老人――賢竜ポルックスが手招きする。


「少女よ、きたまえ」

「えっと」


 ベオウルフが俺の顔を見る。


「危険を感じたら迷わず斬れ」

「あ、はい」

「おやおや、信用されていないね」


 ベオウルフは慎重にポルックスのところへと行く。


「えっと、ボクのタルトに必要なものを教えてください」

「もちろんだとも。耳を貸したまえ」


 ポルックスはベオウルフの耳元でなにかをささやく。

 こちらには聞こえない。

 俺はベオウルフの表情を観察する。


 しばらくは変化のなかった彼女の表情が変わった。

 恥ずかしそうに顔を赤らめてうつむく。


「本当にそれが必要なんですか?」

「信じたまえ。私は賢竜と呼ばれているもの。すべてを熟知しているのだよ」

「もしかして、最後の試練もそのために?」

「ご名答。かしこい少女だ」

「わ、わかりました。ありがとうございます」


 ベオウルフが小走りでこちらに戻ってくる。


「教えてもらったのか?」

「はい。家に帰ったらもう一度作ってみます」

「結局、なにが必要だったんだ?」


 俺が質問するとベオウルフは再び頬を赤らめる。

 そして目をそらしながら答えた。


「ひ、秘密です」

「えっ!? なんでだ!?」

「とにかく、秘密なんです。ここまで付き合っていただきながらもうしわけありませんが……」

「『稀代の魔術師』の後継者よ。乙女心をわかってあげたまえ」


 ポルックスにまで言われてしまった。

 乙女心が関係あるのか……?


「必要な材料、このあと買いにいくか?」

「い、いえ、お店に売ってるものではないので……」


 もじもじするベオウルフ。


「ボ、ボクひとりでなんとかなりますので。アッシュお兄さん、今日はありがとうございました」


 腑に落ちないままこの件は終わったのであった。



 後日。

 ベオウルフがプリシラに会いに『シア荘』に遊びにきた。


「聞いてください、アッシュさま。ベオ、ついにお師匠さまにイチゴのタルトを認めてもらえたんですよ」


 よかった。今度こそ彼女のタルトは完成したんだ。

 結局、なにが必要だったのかは俺は知れなかったが。


「これもアッシュお兄さんのおかげです」

「さすがはアッシュさまですっ。なんでも解決できちゃうんですねっ」

「まあ、ははは……」


 俺自身、よくわからなかったで笑ってごまかした。

 ベオウルフが俺の前に立つ。


「それで、アッシュお兄さんにお礼をしようと思いまして」

「お礼なんていらないさ。俺とベオウルフの仲だろ?」

「というか、ボクがプレゼントしたいんですっ」

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