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88-7

「アッシュお兄さん、身体に異常はありませんか?」

「平気だ。どうやら俺を閉じ込めるだけの魔法だったみたいだ」

「よかったです」


 ベオウルフはほっと胸をなでおろした。

 彼女は平気だろうが、俺は彼女が剣を持ってあの顔をするたびに罪悪感を覚える。


 彼女にはイチゴのタルトを食べているときの顔が一番似合っている。

 けれど、残酷なことに神は彼女に剣の才能を与えてしまった。


「アッシュお兄さん?」


 ベオウルフが俺の顔を覗き込んでくる。


「本当に平気なんですか? 苦しそうな顔をしていますけど」

「あっ、いや、狭くて少し息苦しかっただけだ」

「ならいいんですが」


 俺は慌てて笑顔を繕った。

 門番は倒した。

 この先にあの老人はいるのだろうか。


 扉をそっと押す。

 ……。

 しかし、開かない。


 少し力を入れて押す。

 ところが扉はびくともしない。

 押してダメなら引いてみても無駄だった。


「あ、開かない……」


 どういうことだ。

 あの魔物を倒せば先に進めるとばかり思っていた。

 周囲を見回してみても他に先へ進めるような扉は見当たらない。


 蹴破るか、魔法で破壊するか。

 いや、それではだめだ。

 押し売りの老人は俺たちを試している。強行突破は正解ではないだろう。


「あれを見てください」


 ベオウルフが扉の横の壁を指さした。

 今まで気づかなかったが、そこには絵画が飾られていた。

 若い男女が口づけをしている絵だ。


 そしてそこにはこんな一文が添えられていた。

 ――乙女の口づけが扉を開く鍵となるであろう。

 ……それで理解した。扉の開けかたを。


「……」


 視線を感じて横を向くと、ベオウルフが俺をじっと見つめていた。


「アッシュお兄さん。少ししゃがんでもらえますか」

「どっ、どうしてだ!?」

「口づけをするんです。扉を開けるにはそうしないといけないみたいなので」


 平然とした口調でベオウルフは言った。

 うろたえているのは俺だけ。


「ボクは乙女っぽくないので失敗するかもしれませんけど」

「ベオウルフはそれでいいのか?」

「どういう意味です?」


 きょとんとするベオウルフ。

 彼女は異性を口づけするのになんの抵抗もないらしい。


「俺とキスしていいのか?」

「別にかまいません。ボクのほうこそすみません。ボクなんかとキスをさせてしまって」

「お、俺もベオウルフならかまわな――いや、なんでもない」


 咳ばらいでごまかす。

 いいのだろうか。恋愛のこともよくわからない年頃の少女の口づけを安易にもらってしまって。

 しかし、扉を開けるにはそうするしかない。


「じゃあ、俺にキスしてくれ」

「はい」


 ひざを曲げて屈む。

 目を閉じて、彼女の口づけを待つ。

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