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門と同様、屋敷の入り口も俺たちが近づくとひとりでに開いた。
中へと入る。
吹き抜けの広いロビー。
「おじいさーん。いませんかー」
相当広い屋敷にもかかわらず、メイドの一人の姿すら見かけない。
人の気配がしなくて不気味だ。
と、そんなとき、コツコツと足音が聞こえてきた。
「ようこうそ、我が屋敷へ」
先日の押し売りの老人が姿を見せた。
「紙に書いてあったとおり、アッシュお兄さんと二人で来ました」
「よろしい。ではキミに足りないものを譲ろうではないか」
そう言うと老人はロビーの階段を上がって二階部分に上がる。
「正面の扉の先へと進むといい。私はその先で待っている」
まだなにかあるらしい。
「試練に打ち勝つ勇気を見せてもらおう」
そう言い残して老人は去っていった。
試練……。
嫌な予感しかしない。
「行きましょう。アッシュお兄さん」
俺たちは正面の扉を開けた。
そこには恐ろしいものが待ち受けていた。
「なっ、なんだこれ!?」
扉の先は一直線の長い廊下。
そしてそこにはギロチンが等間隔にいくつも設置されていた。
ギロチンとはもちろん、罪人の首切り落とす、あの金属の刃だ。
廊下の壁と一体化しているギロチンは、からくりで動いているらしく、落下してはもとの位置に持ち上がり、再び落下するのを繰り返している。
この刃にあたらないよう見計らって廊下を進まなくてはいかないらしい。
うっかり落下する瞬間に通ってしまったら命はない。脳天にギロチンの刃が食い込む運命となるだろう。
「勇気を見せるってこういう意味だったんだな」
勇気を見せるといっても、命がけとなると話は別だ。
あまりにも危険すぎる。老人の戯れでギロチンの刑なんてごめんだ。
俺はベオウルフに屋敷から出るのを提案した。
「いえ、ボクは先に進みます」
ベオウルフは首を横に振った。
俺の制止も聞かず廊下を進んでいく。
落下したギロチンが上に持ち上がった瞬間を見計らい、彼女は一つ目のギロチンを通過した。
「ほら、かんたんですよ」
ギロチンの罠は動きがゆっくりしているため、通るのは彼女の言うとおりかんたんだろう。
だが、万が一、つまずきでもしたら即死だ。
ごくり、つばを飲む。
ベオウルフを一人で行かせるわけにはいかない。
俺は覚悟を決め、ギロチンの刃が上がった瞬間にギロチンを通過した。
俺が通り抜けた後、ギロチンの刃はすとんと落下した。
背筋が怖気が走り、身震いする。
「アッシュお兄さん、ついてきてくれるんですね。ありがとうございます」
「くれぐれも気をつけていくぞ……」
それから合計10個、ギロチンをくぐり抜けて俺とベオウルフは廊下のつき当たりまで到達したのであった。




