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88-2

 俺は驚いた。

 あんなにすばらしい出来のタルトをベオウルフの師匠は評価しなかったなんて。

 普段、あまり表情を表に出さないベオウルフだが、今回ばかりはあからさまに落ち込んでいるのがわかった。


「具体的にどこがダメだったんだ?」

「それは自分で見つけなくちゃいけない、って言われました」


 よわったな……。

 俺が食べた限り、あのイチゴのタルトに欠点らしい欠点はなかった。

 あえて言うならば、とさえ言えないくらいだ。


「ボクはなにがダメだったのでしょう……」

「師匠のイジワルだったり」

「師匠はそういう人ではありません。師匠が未熟だと言ったのなら、ボクのイチゴのタルトには明確にあったのです。ボクたちが気付かなかった欠点が」


 こうなれば『マルタの木の実』を使うしかない。

 どんな料理でもおいしくなるあの木の実を混ぜればおいしくなるはず。

 試してみよう。


 マルタの木の実を採ってきて、生地に練りこんでタルトを作った。

 言うまでもなく味は最高だった。

 これならベオウルフの師匠も満足するはず。


 ……ところが。

 後日、ベオウルフに会うと、依然として落ち込んだ表情をしていた。


「ダメだったか……」

「すみません。ボクの力不足です」

「そんなはずはないんだが……」

「師匠に『欠点がなにかわかったか?』と尋ねられてボクは答えられませんでした」


 そうなのだ。

 結局俺たちはベオウルフのタルトの欠点を見つけられなかったんだ。

 俺たちは落胆する。


 そんなときだった。『シア荘』に妙な人物が訪れたのは。

 ドアを叩く音がして玄関の扉を開けると、そこには白髪の老人が立っていた。


「どちらさまでしょう?」

「突然の来訪、失礼。諸君らは困ってはいないかね?」

「えっと……はい?」


 意味がわからない。

 謎の老人は訪ねてくるなり妙なことを質問してきた。

 聞いたことがある。王都では家を訪問して物を売る『押し売り』というものがあると。


「あの、押し売りなら結構です」

「なに? いらんのかね?」


 やっぱりそうだった。


「本当にいらんのかね?」

「いらないです」


 なにを売るのかわからないが、どうせろくでもないものだろう。

 と思いきや、押し売りの老人はとんでもないことを言いだした。


「そこのお嬢さんのタルトに足りないものを売ろうとしているのだよ?」

「えええっ!?」


 ベオウルフのタルトの欠点をこの老人は知っている!?

 というか、どうして俺たちのことをそこまで知っているんだ!?

 怪しい。怪しすぎる。この老人。


「教えてください!」


 ベオウルフが俺の背後から勢いよく出てきた。

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