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88-1

 部屋に甘い香りが漂ってくる。

 プリシラとベオウルフがタルトを焼きはじめたのだ。

 イチゴのタルトの完成は近い。


「できましたーっ」


 それからしばらく経過して、プリシラとベオウルフが部屋に現れた。

 テーブルの真ん中にイチゴのタルトが置かれる。


「おお……」

「これはすごいですわ……」


 俺もマリアもスセリも思わずうなった。

 円形の大きなタルトの上にクリームが敷かれ、その上にイチゴとブルーベリーが上手に飾り付けられている。ミントの葉も載っていて、美しい色どりだ。

 イチゴはゼラチンを塗られて光り輝いてまるで宝石。


「ど、どうでしょうか……」


 おずおずと感想を尋ねてくるベオウルフ。


「すばらしいですわ!」

「まるで芸術品だ」

「そ、それは過言かと……」


 照れくさそうにはにかんだ。

 決して過言ではない。

 プリシラの助けがあったとはいえ、料理の素人がパティシエ顔負けのタルトはそうそう作れない。


「とはいえ、肝心なのは味じゃな」

「わたしが切り分けますね」

「この芸術品を崩してしまうのは忍びないですわね」


 切り分けられたタルトが各々の小皿に。

 みんな同時にタルトを一口かじった。


 おいしい。

 タルトのほどよい歯ごたえのする食感、クリームの甘さとイチゴとブルーベリーのすっぱさが見事に調和して、一つの作品として完成されている。

 なんて上品なタルトなんだ。


「すばらしいですわ!」

「同じことを二度も言うでない」


 マリアがそう言うのも無理はない。

 このタルトを一言で表すのに『すばらしい』以外の言葉があるだろうか。


「おいしいよ、ベオ」

「よ、よかった……」

「ふむ、しかし、実用性はどうじゃな?」

「実用性?」


 スセリの質問に首をかしげるベオウルフ。


「ベオウルフは人里離れた山奥で暮らしておるのじゃろう? そこでも作れるのか?」

「あ、それは問題ありません」


 ベオウルフによると、材料は山を下りて王都で買えるものをそろえているし、師匠と暮らしている小屋でも調理できる器具使っているという。


「師匠もよろこぶだろうなあ」




 これでベオウルフの生活が文化的になった――かと思いきや。

 数日後、ベオウルフが真剣な顔をして『シア荘』を訪ねてきた。


「アッシュお兄さん。ボクに力を貸してくれませんか?」

「い、いきなりどうした……?」


 彼女は俺にずいっと顔を近づけてそう言ってきたのだ。


「ボク、あの後、家でもタルトを作ったんです」

「師匠、驚いただろ?」

「それが……」


 ベオウルフは顔を曇らせる。


「『まだまだ未熟だな』と言われてしまいました」

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