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マリアは余裕の笑みを浮かべていた。
それから夕刻、プリシラとスセリが魔物討伐から帰ってきた。
「ベオがイチゴのタルトを作れるようになりたいと……」
「まあ、あの幼い年ごろで剣術しか能がないというもかわいそうじゃからな」
「ベオウルフに教えられるか? プリシラ」
プリシラは「うーん」と考え込む。
「わたしも作ったことはないのですが、レシピさえあれば作れるかと」
というわけで翌日、図書館でお菓子作りの本を借りた。
もちろん、イチゴのタルトの作り方は載っていた。
帰り道の途中、材料も買い、『シア荘』に帰ってくるとさっそく試作を作った。
「できましたーっ」
「待っておったのじゃ」
プリシラが作ったイチゴのタルト。
つやつやのイチゴが宝石のように美しく輝いている。
甘いかおりが食欲をそそる。
俺とプリシラ、それにマリアとスセリの四人で試食する。
おいしい。サクサクとした歯ごたえの生地に、甘酸っぱいイチゴがたまらない。
いつものカフェで食べるものとは味は違うが、決して劣ってはいない。
これならベオウルフにも教えられる。
「プリシラよ。おぬし、将来はパティシエになってはどうじゃ」
「スセリさまってば、おだてないでくださいよー。てへへー」
「いや、大真面目に言っておる」
プリシラがきょとんとする。
「おぬし、将来なにになりたいか明確な道を決めておらんじゃろ。パティシエなるという選択肢はありあえるとワシは思うのじゃ」
「パティシエ……」
真剣な面持ちになるプリシラ。
ちらりと俺の顔をうかがってくる。
「プリシラ。俺の許可を得なくてもいいんだぞ。プリシラは俺のメイドだが、将来はプリシラの好きに決めるといい」
「ア、アッシュさま……」
よろこんでくれるかと思いきや、プリシラはがっくりとうなだれた。
な、なにか変なことを言ってしまったのか……?
スセリとマリアも心底呆れた表情をしている。
「アッシュ。あなた、本当にどうしようもありませんわね」
「プリシラはおぬしのお嫁さんになりたいのじゃ。ここは『俺と結婚して、二人でケーキ屋を開こう。愛しいプリシラよ』と言ってやるのが模範解答なのじゃ。わかったか」
プリシラはこくこくと激しくうなずいていた。
後日。イチゴのタルトの作りかたを教えるため、ベオウルフを『シア荘』に招いた。
プリシラもベオウルフも頭巾とエプロンをつけて準備はばっちりだ。
「よろしくお願い、プリシラ」
「うんっ。まかせて」
「ボクと師匠、普段は山で採ってきたよくわかんない山菜を煮た汁物や、焼くと臭いにおいのする獣肉くらいしか食べないから、イチゴのタルトを作れるようになったら食生活がだいぶよくなるはずなんだ」
そ、それは切実だ……。




