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ベオウルフはフォークをイチゴのタルトに突き立てて思い切り食らいついた。
上品とは言い難いが、食べるのを楽しみにしていたのは伝わってきた。
どんぐりを詰め込んだリスみたいにほっぺたをふくらませてもぐもぐしている。
しあわせそうでなによりだ。
幼い年齢で命を奪うことに秀でた剣士という危うさをはらんでいる少女、ベオウルフ。
こうして甘いものを食べているときの姿は歳相応で安心する。
「このあと『シア荘』にも寄っていくだろ? せっかくだから自分でプリシラにお願いしたらどうだ」
「では、お言葉に甘えて」
お茶を終えて代金を支払いにいく。
精算台の前に立って店員に伝票を渡す。
それからポケットをまさぐって財布を出す。
ところがそれに先んじて、ベオウルフが店員にお金を渡した。
「俺が払うからいいぞ」
「いつもアッシュお兄さんにおごってもらっては悪いですから」
それに、とベオウルフは続ける。
「ボクって結構、お金持ちなんですよ。山奥で師匠と二人きりで暮らしているので、お金の使い道が無いだけですけどね」
そういうわけで今回はベオウルフにおごってもらったのであった。
年下の女の子におごってもらうのは少々格好がつかないが……。
それから彼女を連れて『シア荘』に帰宅する。
「ごきげんよう、ベオウルフ」
出迎えたのはマリアだった。
「こんにちは、マリアさん」
ぺこりとお辞儀するベオウルフ。
「プリシラはいますか?」
「あいにくですけれどプリシラは今、お仕事に行ってますの。スセリさまと共に」
「そうでしたか……」
ベオウルフはがっかりする。
「でも、マリア。今日はもうギルドの仕事はないんじゃ」
「少し前にキルステンさまに呼び出されましたの。緊急の魔物討伐に参加してほしいと」
魔物討伐の仕事か。
危険を伴う仕事だが、二人なら大丈夫だろう。
「せっかくですわ。お茶でも飲んでいかれたらいかが?」
「あ、もてなしてくれるのはうれしいんですけど、さっきアッシュお兄さんとカフェでお茶をしたので」
「あら、そうですの」
「……」
ベオウルフはじっとマリアを見つめている。
視線が気になるのか、マリアは苦笑いする。
「ボク、アッシュお兄さんと二人きりでお茶を楽しんだんです」
「よかったですわね」
「あれ? 嫉妬しないんですか?」
あ、そういうことか。
ベオウルフは気にくわなかったのかもしれない。自分が恋敵だと認識されてないことが。
マリアはドヤっと得意げな顔をして胸に手を添える。
「アッシュはわたくしを一番に想っているのを知っていますもの。多少他の女性に近づいても許してあげていますのよ」
「大人の余裕というわけですか」




