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87-2

 さっそくケーキに手をつける。

 クリームの甘さとイチゴのすっぱさがたまらない。

 スポンジもやわらかくて甘い。


 コーヒーも香りも苦みも上品で、自分で淹れるのとはわけが違う。

 王都の繁華街に建つだけあって少々値は張るが、値段以上の満足感を得られる。


 ベオウルフもさぞおいしそうに食べるのだろう。

 ……と思いきや、彼女はなぜかフォークすら持たず、目の前にあるイチゴのタルトをためつすがめつ見ていた。

 首を傾けていろんな角度から観察している。


「今さら遠慮しなくていいんだぞ」

「いえ、そういうわけではないんです」


 ベオウルフはイチゴのタルトの観察を続ける。

 懐からメモ帳と鉛筆を取り出してなにか書きだした。


「な、なにを書いているんだ……?」

「スケッチです。タルトの見た目を絵に残しておこうと思いまして」


 絵にするほど感動した……わけではなさそうだ。

 スケッチを終えるとようやくタルトを食べだした。

 一口ずつゆっくりと味わって食べている。


 ベオウルフの表情は真剣だ。

 甘いものを食べているときではなく、剣を持って敵と対峙するときのような顔をしている。

 どうもようすがおかしい。


「ベオウルフ。今日はいったいどうしたんだ?」

「え?」

「難しい顔をしてタルトを食べてる」

「あ、ボク、そんな顔してましたか」


 実は、と前置きしてからベオウルフはこう言った。


「ボク、このカフェのイチゴのタルトが大好物なんです」

「そうだな。いつも頼むよな」

「ですが、毎回アッシュさんにおごってもらうのが申し訳なくて」

「気にしなくていいだ。ベオウルフは俺の妹みたいなものだからな」

「お嫁さんではなくて?」

「お嫁さんではないな……」


 ベオウルフが不服そうにほっぺたをふくらませた。


「まあ、その話は置いておきましょう。ボクはこう思ったんです。自分の家でもイチゴのタルトを食べたい、と」


 だからベオウルフは研究することにしたという。

 このカフェのイチゴのタルトを。

 それが難しい顔をしていた理由だった。


「で、どうだ? 自分で作れそうか?」

「いえ、まったく無理ですね」


 ベオウルフは首を横に振った。


「見たり食べたりするだけじゃ作れるわけないです」


 まあ、そうだろう……。


「アッシュお兄さん。プリシラはイチゴのタルトを作れるでしょうか」

「レシピさえあれば作れると思うぞ」

「では、プリシラにお願いしてもらっていいですか? イチゴのタルトの作りかたをボクに教えてほしい、って」

「わかった。だから目の前にあるそれは、もっとおいしそうに食べるといいさ」

「はいっ」

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