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さっそくケーキに手をつける。
クリームの甘さとイチゴのすっぱさがたまらない。
スポンジもやわらかくて甘い。
コーヒーも香りも苦みも上品で、自分で淹れるのとはわけが違う。
王都の繁華街に建つだけあって少々値は張るが、値段以上の満足感を得られる。
ベオウルフもさぞおいしそうに食べるのだろう。
……と思いきや、彼女はなぜかフォークすら持たず、目の前にあるイチゴのタルトをためつすがめつ見ていた。
首を傾けていろんな角度から観察している。
「今さら遠慮しなくていいんだぞ」
「いえ、そういうわけではないんです」
ベオウルフはイチゴのタルトの観察を続ける。
懐からメモ帳と鉛筆を取り出してなにか書きだした。
「な、なにを書いているんだ……?」
「スケッチです。タルトの見た目を絵に残しておこうと思いまして」
絵にするほど感動した……わけではなさそうだ。
スケッチを終えるとようやくタルトを食べだした。
一口ずつゆっくりと味わって食べている。
ベオウルフの表情は真剣だ。
甘いものを食べているときではなく、剣を持って敵と対峙するときのような顔をしている。
どうもようすがおかしい。
「ベオウルフ。今日はいったいどうしたんだ?」
「え?」
「難しい顔をしてタルトを食べてる」
「あ、ボク、そんな顔してましたか」
実は、と前置きしてからベオウルフはこう言った。
「ボク、このカフェのイチゴのタルトが大好物なんです」
「そうだな。いつも頼むよな」
「ですが、毎回アッシュさんにおごってもらうのが申し訳なくて」
「気にしなくていいだ。ベオウルフは俺の妹みたいなものだからな」
「お嫁さんではなくて?」
「お嫁さんではないな……」
ベオウルフが不服そうにほっぺたをふくらませた。
「まあ、その話は置いておきましょう。ボクはこう思ったんです。自分の家でもイチゴのタルトを食べたい、と」
だからベオウルフは研究することにしたという。
このカフェのイチゴのタルトを。
それが難しい顔をしていた理由だった。
「で、どうだ? 自分で作れそうか?」
「いえ、まったく無理ですね」
ベオウルフは首を横に振った。
「見たり食べたりするだけじゃ作れるわけないです」
まあ、そうだろう……。
「アッシュお兄さん。プリシラはイチゴのタルトを作れるでしょうか」
「レシピさえあれば作れると思うぞ」
「では、プリシラにお願いしてもらっていいですか? イチゴのタルトの作りかたをボクに教えてほしい、って」
「わかった。だから目の前にあるそれは、もっとおいしそうに食べるといいさ」
「はいっ」




