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男女の彫像を競り落とした男はさっそくその品を抱えて、オークション会場を後にした。
すかさずキルステンさんも立ち上がる。
「行くぞ」
男が馬車に乗る。
俺たちもギルドが用意した馬車に乗り、男の馬車を尾行した。
郊外に出てひとけがなくなり、尾行がばれそうになると、そこでキルステンさんは馬車を止めて降りた。
双眼鏡で男の馬車の行方を追う。
馬車は打ち捨てられた廃墟の屋敷へと向かっている。
やがて門の前に止まり、男は屋敷に入っていった。
「マリア・ルミエール。お前はギルドに戻り、待機している者たちに加勢を要請しろ。準備が整い次第、いっせいに突入する」
「あの男は何者ですの?」
「ロッシュローブ教団だ」
それからしばらくして50人ばかりの冒険者が駆けつけてくると、俺たちはいっせいに廃墟の屋敷へと突入した。
そしてそこに集まっていた暗殺組織ロッシュローブ教団を一網打尽にしたのであった。
さすがの暗殺教団も腕の立つ冒険者たちによる奇襲には対応できず、抵抗もむなしく捕まった。
教団がオークションで競り落とした男女の像は今、キルステンさんが手にしている。
屋敷の地下室に行く。
「ここは……?」
「宝物庫だ」
「宝物があるのですかっ」
「いや、ない」
「へ……?」
固く閉ざされた石の扉。その脇に据えられた台座にキルステンさんは彫像を置いた。
石の扉が重い音を立てながらゆっくりと左右に開いていった。
宝物この中には金銀財宝が文字通り山のように積まれて――いなかった。
「からっぽですわね」
「ロッシュローブ教団は宝物庫の宝を狙って、カギになる彫像を手に入れたのだと思ったんですが」
「ロッシュローブ教団を一か所におびき寄せるために、私の指示でギルドがデタラメなうわさを流したのだ。計画通りだ」
キルステンさんは「だが」とため息をつく。
「幽霊騒ぎは想定外だったがな」
そういうわけで一連の事件は解決したのだった。
幽霊が憑依している男女の彫像はというと、今は教会に預けてある。
彫像は大事に保管すると教会は言ってくれた。
――冒険者さん、ありがとうございます。
――これで僕たちは永遠にいっしょにいられます。
男女の幽霊が俺たちにお礼を述べた。
二人ともしあわせそうな表情をしていた。
「それにしてもひどいですよー。悪いやつらを捕まえるためとはいえ、ウチの宿が迷惑をこうむったんですからー」
「そこはキルステンさんも謝っていたから許してくれ。彫像に幽霊が憑りついていたなんて思いもよらなかったんだ」




