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俺たちはここで死ぬのだろう。
プリシラだけでも逃げ延びてほしかったが、そうもいかないらしい。
せめてもの抵抗をするため、腰からナイフを抜こうとしたそのとき、
――魔法を使うのじゃ!
聞き覚えのある少女の声が頭の中に響いた。
リュックサックの中に入れていた魔書『オーレオール』がひとりでに飛び出し、俺の目の前に浮遊した。
――はやくワシを受け取るのじゃ!
少女の声に従って『オーレオール』を手にする。
すると、俺のとなりに昨日、地下室で出会った銀髪の少女スセリが突如姿を現した。
プリシラが「ひゃあっ」と驚いて飛び跳ねる。
「誰ですかあなた!?」
「今はそんなことどうでもよかろう、小娘。アッシュよ、呪文を唱えるのじゃ!」
三匹のオオカミが飛び掛かってきた。
考えている暇はない!
俺は頭の中に浮かんだ言葉をとっさに叫んだ。
「風の刃よ!」
刹那、俺がかざした『オーレオール』から魔力の刃が生じる。
まばたきの一瞬すら許さぬ速さで風の刃は一直線に走り、襲い掛かるオオカミたちを切り裂いた。
鋭き刃が手足を、首をもぎ取る。
「倒したのか……」
「すごいです、アッシュさま!」
魔力の刃で切り裂かれたオオカミたちは地面に倒れ、やがて消滅した。
ぴょんぴょん飛び跳ねてよろこんでいたプリシラは、すぐまた耳をぴんと立てて表情を険しくした。
今度は俺にも聞こえる。
ずしん、ずしん、ずしん……。
巨大ななにかがこちらに迫ってくる、重い足音が。
木立の間から現れたのは、石造りの巨人、ゴーレムだった。
ゴーレムは高位の召喚獣。兄上たちにはまだ呼び出せない。
だとするとコイツは父上の差し金か。
「案ずるなアッシュよ。おぬしには『オーレオール』がある」
隣に立つスセリがそう言う。
「『オーレオール』は万能の魔書。持ち主に最強の力を与える」
この魔書を持った瞬間から、俺の中にとてつもない魔力がみなぎっているのを感じていた。
これが魔書『オーレオール』の力……。
スセリが俺の肩に手を触れる。
「さあ、唱えるのじゃ」
俺はゴーレムと対峙し、『オーレオール』をかざす。
頭から指先まで、膨大な魔力が全身を駆け巡るのを感じる。
身体が熱い。
頭の中に浮かんでくる呪文。
俺はそれを高らかに唱えた。
「来たれ!」
頭上に描かれた魔法円から剣が現れる。
金属召喚で剣を呼び出した。
剣を手にし、ゴーレムに斬りかかる。
強固な石の身体のゴーレムを俺は一刀両断した。
通常の刃などはじかれるはずなのに、一撃で斬ったのだ。
静寂が訪れる。
「バカな!」
そんな声が聞こえてきた。
木の陰から現れたのは――父上。
「お前がその手に持っている魔書は、まさか『オーレオール』か。そうか、お前が選ばれたのだな」
父上が俺たちの元へ近づいてくる。
プリシラが俺の背中に隠れる。
「アッシュよ。それは『オーレオール』だな?」
「はい」
「昨日の件は撤回しよう。地下室に無断で入ったのも不問とする。お前は選ばれし者だ。ランフォード家に戻るのを許そう」